二人との距離はかなり近くなり、時には夕飯を御馳走になることもある。
夕飯を取るということは必然帰りが遅くなるということもあり、そうした時には茉利奈の運転する車で送っていってもらうことが常だった。
もともとは祖父のものだったという年季の入ったマニュアル車を運転する姿は助手席に座る玲菜の目から見ても決まっている。
玲菜と香里奈よりも背が小さいことと、香里奈に対する子供っぽい嫉妬を見ていると年上ということを忘れさせることもあるが、この人は大人なのだと改めて認識させてくれる瞬間だった。
「今日は認めなかったんだな」
「そうね。たまには貴女と二人で話してみたいし」
二人がさしているのは香里奈のことだ。三十分もかからないとはいえ一人で留守番させることを嫌うことと、そもそも香里奈が一緒に行くと言うことが多くこれまでは必ず香里奈が同乗していたが今日はいない。
「…ほんと貴女になついてるわね」
「そのよう、だな」
香里奈のことに対する返事は慎重が求められる。迂闊なことを言えば茉利奈の心象に大きく影響してしまう。
(……もっとも、それがどうというわけではないが)
香里奈の姉としてある程度は親密になってきたが、直接玲菜の生活に影響を与えるというわけではない。ただ、香里奈のためにも嫌われたくはないと考えていた。
「……まぁ、香里奈が仲のいい子を作るのはいいことなのはわかってるけど……」
ハンドルを握りながら前を見つめる茉利奈は無表情ながらもどこか寂しそうな顔をしていた。
「それは……そうだろうな」
ふと玲菜は結月が自分に似たようなことを言っていたことを思い出す。
(……結月にとって、私は妹か娘のようだということだろうか)
香里奈の姉であり、ある意味母であり、保護者という立場の人間からそんな言葉を聞くとそんなことも思ってしまう。
「けど、ここまで……好………仲よくしてくれてるのは貴女が初めてよ」
「まぁ……私も同じような立場だからな」
「?」
今ここで自分の秘密を明かす必要などないだろう。ただ、自分だけ香里奈の事情を知っていることと、傷を知る周りの人間から逃れるためにある意味香里奈を利用しておいて、黙っているのはフェアではない気がした。
「……私にも親がいないんだ」
「……そう」
茉利奈はただ頷いた。どんな理由かも、なぜ結月の家に住んでいるのかということも聞かずに。
(やはり……大人なのだな)
ずっと年上という存在に接してこなかった自分が初めて識る大人の女性。
(……ふむ)
その姿に玲菜は羨望に近い瞳を向ける。
「とにかくこれからも仲良くしてあげてくれると嬉しいわ」
「っ……」
茉利奈の立場からしたら何もおかしくない言葉だったがまっすぐに茉利奈を見つめていた玲菜にはどこか違和感を感じさせ、その正体が見えず玲菜は曖昧に「あ、あぁ……」と頷いていた。