自分が悪者になっている。
その苦々しい自覚は確実に茉利奈のことを追い詰めている。
香里奈の前でこそ香里奈の理想とするお姉ちゃんを装うことはできるが、それでも香里奈から玲菜のことを聞くことが罪の意識を加速させる。
大切な妹の幸せを壊してしまうかもしれない。
自分が身を引けばいいという問題ではない。自分たちの関係がばれれば玲菜への不信につながる。
そうなれば香里奈と玲菜との関係も終わりを迎えるだろう。
それは耐え難いことだ。ましてや自分の責任であるなど想像もしたくなかった。
ずっと香里奈のために生きてきたのだから。
(………でも………)
香里奈の幸せを願うのと同時に………願いたいものもあった。
その願いこそが今の状況を作ってしまっている。
それを表に出すことが無ければ耐えられたかもしれないが一度願いを叶えてしまったら次が欲しくなる。いけないとわかりながら深みにはまっていく。
「どうかしたのか?」
「……なんでもないわ」
この日は外でのデート、近場だと誰かに出くわす可能性も考慮し茉利奈の車で遠出をしている。
訪れたのは観光名所にもなっているフラワーパーク。二人ともことさら花をめでる趣味があるわけではないが、子供の頃に両親に連れてきてもらった数少ない想い出の場所の一つということだ。
だが、茉利奈の表情は常に暗く玲菜への反応の鈍い。
園の中央にある広場のベンチで飲み物を飲みながら休憩する二人だがほとんど会話はなく、あったとしても先ほどのような意味のないもの。
「……さすがにそれは無理があるだろう。さっきから何回そう言っていると思っている」
見晴しがよく花に囲まれた場所で玲菜は苛立ちというよりは心配を表に出して問いかける。
「心配してくれるの?」
「当たり前だ」
「あは、貴女は私のことなんてどうでもいいかと思ってた」
「何を言っている、そんなわけないだろう」
(……………最低)
そんなことないと言ってもらうために自分を卑下した。そんな浅ましいことをしてしまう自分が嫌だ。
「……そろそろ話してくれてもいいんじゃないか」
だが、玲菜もそれに気づいている。玲菜もまた自分を卑下してしまう辛さを知っているからこそ、その気配を敏感に察知する。
「何を?」
「貴女の気持ちをだ。理由なく私とこんなことをしているわけじゃないんじゃないか」
「貴女が好きだからって言わなかった?」
「なら、その理由を聞かせてくれ」
「…………………………人を好きになるのに理由は必要ないでしょ?」
その沈黙が続いた言葉を否定している。
「貴女だってこのままでいいとは思っていないんだろう。どうなるとしてもあなたの気持ちを知らなければ私には何もできない。何かが貴女を苦しませているのなら私が力になる。だから話してくれ」
実直な玲菜の言葉。
黒く大きな瞳で茉利奈を見つめ、包み込むように手を握る。
他人にはされたこともなければ、これからされることもないであろう感覚に茉利奈は喜びと同時に心を痛める。
「………貴女がそんな風だから」
「どういう、意味だ?」
「貴女が不用意に優しいからよ……」
茉利奈はもう玲菜を見ることができなかった。
結局自分は玲菜の優しさに甘えている。いや、付け込んでいる。
(………………貴女の言うとおりなのよ)
いつまでもこうしてはいられない。
そして終わりを先延ばしにすればするほど苦しむのは自分だ。
「……ねぇ」
この時茉利奈は自棄になっていたのかもしれない。
「……次の場所、いこっか」
それは終わりを迎えるための言葉。
少なくてもこの時、茉利奈は終わりを覚悟していた。