そして、問題は何も解決していないで夜になる。
夜、というか、深夜。
彩音がもう寝静まった頃。
彩音のベッドの腰を下ろして彩音の寝顔を見つめてる。
(……ほんとこいつってむかつくわよね)
いい加減私の気持ちに気づいてもよさそうなものなのに。
というか、気づいてるとか気づいていないに関係なく。恋人の私が目の前にいるのにゆめのことばかりを気にするとかありえないわよ。
「……ううん」
私は軽く首を振る。
それから彩音の頬を撫でて
「それが、あんたよね」
諦観しながら言った。
本気で分け隔てなく、いっさいの優劣なく私とゆめを愛してくれている。それが彩音。
「………………」
こんなことはもう何度も何度も思っていること。そして、そんな彩音を肯定していつもは頬を軽くキスをして終わり。
それがいつもの不安を抱えた夜の過ごし方。
でも、今日は少しだけ違って
「…………」
なんだか不安になってる。
好きな人の好きなところもわからない自分。
何かにつけてゆめを先にする彩音。
「………彩音」
私はこれまで絶対の自信を持っていた。
ううん、今でも彩音の恋人であるという絶対の自信を持っている。
これまでもこれからも彩音の一番好きな人であるという自信を持っている。
(けど………)
ちょっとだけ、本当に、ほんの少しだけ揺らいでる。
彩音の好きなところがわからないということと、ゆめを優先する彩音。
「……私は、あんたのどこが好きなのかしらね?」
自分の中にしかない答え。
「……あんたは私のどこが好きなの?」
彩音の中にしかない答え。
どちらも今はわからない。
気持ちを疑ってなんかない。
でも、明確に好きの答えが言えないっていうのはすっきりしなくて、そんな不安のひとかけらが心に宿るのがすごく嫌な感じがした。
大好きで、信じていて、信じられているのに………不安を感じている自分がいる。
それが情けない。
「……ねぇ、彩音」
私は彩音の手を取って、自分の胸に持って行った。
「……もっと、触ってよ」
どうしてゆめには自分からすぐ触って、キスもするくせに私にはあんまりしてくれないの?
ううん、キスもエッチもほとんど私からじゃない。
ゆめには彩音からしてるんでしょ?
「なんで私にはしないのよ。……もっと好きって言いなさいよ。もっと私のこと……愛してよ」
感情が高ぶってつい胸に当てた彩音の手に力を込めた。
「んっ……」
その瞬間に鼓動が高鳴った。
「………彩音」
熱を込めた吐息をはく。
こんなこと普段ならしない。
たとえ求めたくなったとしても、理性が止める。
彩音の気持ちを無視してすることじゃないと。
ゆめは一緒に住んでいないのに私がこんなことをしていいのかという自戒。
でも、今はいつもよりも少し心が弱っていて、彩音が欲しいと思ってしまう。
彩音やゆめがどう思うかよりも自分の欲を優先してしまう。
「はむ……」
ベッドに横たわると彩音の手を口元に持って行って、中指と薬指をくわえた。
「ん……ちゅ……ぴちゅ……くちゅ、じゅぷ」
唾液を絡めながら二本の指を舐めまわす。
「……んぷ、…あやね……んぅ……好き……ちゅぷ」
名前を呼ぶと自然と舌の動きが激しくなる。唇の端から垂れた唾液が彩音の袖を濡らす。
いけないってわかっている。いつ起きないとも限らないし、ばれたらいくら彩音だって怒るかもしれないし、もっと言えば引かれるかもしれない。
「ふぁ……彩音……んちゅ…じゅぷ、ちゅ」
それをわかっていても、一度火のついた心は簡単に沈めることはできなくて
「は………あ……彩音」
引き抜いて指を、私の唾液に濡れた指を黙って見つめる。
私の大好きな彩音の指。濡れて光るそれがどこか蠱惑的で…
「……バカ」
それはいつも通りの意味でつぶやいてから、そして
私は彩音の手を……再び私の体に持って行って…
離した。
あまりに自分が浅ましいことをしているような気がして。
「……何、やってるんだか」
呆れたように言いながら私は複雑な心と体を抱えたまま、どうにか自分の布団へと戻っていった。