「………はぁ」
自己嫌悪。
思った以上に自己嫌悪。
(ほんっとに何してんのよ私は)
いくら情緒不安定になってたからって一線を超えすぎよ。絶対にしちゃダメなこととまでは言わないけど、でも少なくてもいいことじゃないでしょ。
(大体、欲求不満かって話よ)
……まぁ、ある意味不満と言えば不満だけど。
それにしたって……
「……はぁ」
私は今日何度目かのため息をして
「ただいま帰りました」
家の玄関を開けた。
手洗いとうがいをきちんとしてから、階段を上って私たちの部屋に戻って行く。
「ただいま」
「あ、おかえり」
ドアを開けると彩音がベッドで寝転がりながらそう返してくれる。
「あれ?」
そこに違和感。
「ゆめは? もう帰ったの?」
今日はゆめが来てたはず。だから、今日は大した用でもないのに出かけていたんだから。
「うん、なんか家族で食事なんだって」
「ふーん」
ゆめが夕方にもなっていないのに帰るなんて珍しいと思ったらそういうわけ。というよりも、そういう理由でもなければ帰らないか。
ここはすでに半分ゆめの部屋みたいなものなんだから。
会話が止まると私は、彩音のいるベッドじゃなくて、正面のテーブルの前に座った。普段ならベッドに行くところだけど……昨日のあれのせいでちょっと気まずい。
「…………」
とはいえ、視線を送る先は彩音の方しかなくて何気なくベッドを見つめていると
「……ゆめとは何してたの?」
そんな言葉が出た。
「んー、別に何っていうか、いつも通りだけど?」
「……そ」
彩音のいない場所のシーツが皺になってる。あそこはゆめがよくいる場所。彩音の枕の側。
(別にだからどうしたってわけじゃないけど……)
何にもおかしなことはない。気にすることでもない。
だけど……
「ねぇ、彩音?」
「んー?」
「彩音は、ゆめのどこが好きなの?」
気づけばそんな言葉が口から出ていた。
なんで聞いたのかはわからない。あえて言うのならなんとなく。少なくても深い意味なんてない。
質問した時点では。
「んー、どこって言うか、全部?」
あっさり答える彩音。
「小っちゃいところとか、小動物みたいに可愛いところとか、いじっぱりなところとか、素直な癖に素直じゃないところとか、胸が小さいところとか、小さいのを気にしてるくせに気にしないふりをしてるところとか、小さいのに年上ぶるところとか、照れて紅くなるところとか、ちょっと横暴なところとか、いい匂いがするところとか、小っちゃいところとか、かな。まぁ、全部だね、全部」
「……………」
すらすらとゆめの好きなところを述べる彩音。
私はそれをあまり穏やかじゃない気分で聞いて
「………ロリコン」
と事実を嫌味の意味で述べた。
「なんでそうなる」
「小っちゃいって言いすぎよ。まったくほんとあんたは変態ね」
「だから、ゆめにも言われるけど。あたしは小っちゃいからゆめのことが好きなんじゃないっつの」
「どうだか」
……そんなのわかってるわよ。あんたがそれだけ人の好き嫌いを判断する人間だったら、あんたのこと好きになってなんかないわよ。
「大体、小っちゃいから好きになるっていうんじゃ、美咲のこと好きにならないでしょうが」
「……………………なら………」
なら、私のどこが好き? と聞きかけてやめる。
これも普段なら気にしないはずだけど、ゆめのことがあんだけすらすら出てきたのに私の好きなところが全然出てこなかったら落ち込んでしまいそうだから。
「…………ふぅ」
だから私は小さくため息をついて
「? 美咲?」
ベッドに向かうと無言で彩音を抱きしめようとして……やめる。
「?」
(…………バカ)
何だろうという顔で首を傾げる彩音に心の中でそう呟いた。