「うー……」
体中の骨が軋むような痛み。どこもかしこも熱を持って、動くのもつらい。
なのに、ひどく寒気がして朝からベッドに釘付けになってる。
「あー、死にそう」
声を出すと枯れすぎてて自分の声にすら聞こえない。
「大丈夫、そのくらいなら死なないから」
ベッド脇には妹になった美咲が文庫本を手にしながらあたしの相手をしてくれてる。こんな風に会話はおざなりだけど、あたしがのどか沸いたって言えば飲み物を持ってきてくれるし、言わなくてもぬるくなったタオルを交換してくれるしやることはやってくれる。
「ごほ、あー、さむ……」
「我慢なさいな」
「もう一枚くらいなんか掛けるものない?」
「それ以上あっても重くなるだけだと思うわよ? 湯たんぽでもやってみる?」
「……いいや」
湯たんぽにはいい思い出がない。なぜなら……
「昔、火傷したものね」
「んなことまで、覚えてないでよ」
「妹だもの、それくらいは把握してるわよ、お姉ちゃん」
「……はいはい」
っていうか、寒いとは言ったけど熱くもあるんだよね。汗もかいちゃってるし、でも、ゾクゾクって背筋は震えてほんとに辛い。
しばらくぼーっと天井を眺めてたけど、美咲が気を使って黙るせいで部屋が静かすぎてどうも気分がよくない。
「うー、さむ……」
でも、歓談なんかできるわけなくて同じことを繰り返す。
「ふぅ、うっさいわねー」
美咲は一つため息をつくと手にしていた文庫本をパタンと閉じた。
「それじゃ暖めてあげるわよ」
美咲はそういうと、ベッドの中に入ってきてあたしに体を密着させた。
「ちょ、ちょっとなにしてんの?」
「寒いんでしょ? あっためてあげてるんじゃない。ん、彩音、思ったよりも熱くなってるわね」
そうするのが当たり前みたいに美咲はもぞもぞとさらにお互いの息遣いが感じられるくらいまで寄ってくる。
「い、いいって! うつしたら悪いし」
あたしからしたら生ぬるい美咲の体温を感じつつもあたしは美咲を遠のけようとするけど体に力が入らなくて美咲を遠ざけらんない。
「いいわよ。別に、彩音の風邪ならうつされたって」
「…………」
なに泣けるようなこと言ってんだか……ってか別に泣けないか。
でも………
(…………あったかい)
寒気がするのは変わらなくても美咲のぬくもりを感じられるとそれがどこかに吹っ飛んじゃうくらいに体の中から暖かくなってくる。
「なに? 好きな人のなら、病気でも共有したいってやつ? あたしはそういうのノーサンキューなんだけど………」
なのに、美咲相手に素直になるのはあんまり面白くなくて突き放すような言葉が勝手に口元をついてくる。
「ふふ、素直じゃないんだから」
美咲はその程度見切っていて、軽く笑った後にもっとあたしを感じるために軽く抱いてきた。
ったく、もう。風邪のせいで弱気になってるってのに、こんなこと……
もう美咲を突き放す気になんてなれなくてお互いに黙ったままただ時間だけがすぎていく。
「美咲」
「なぁに、お姉ちゃん?」
「……あんがとね」
「……バーカ」
ま、こんな風に風邪引いて寝込むのもたまにはいいか。