私はここにくるまでお風呂というと、髪を洗って体を洗って、適度に体を温めたらすぐに出るということが多かった。

 天原に来てからもそもそも人と一緒に入浴をするというのにも抵抗があって、家にいたころよりも短くなっていたくらいだ。

 それが、そのうちなれてきて家にいたころと同じくらいになり、最近では人と話してのぼせる手前まで来てしまったり、今みたいに考え事をしてつい長くなってしまうということも多くなった。

 というわけで私は、混乱した頭でお湯に体を沈め青色のタイルを何気なくなでながらせつな先輩の誘いについて考えていた。

(あれは、なんなのかしら?)

 あまりに不可解なことだった。出かけてと誘われることはもちろん、学校をサボれなどとあのまじめなせつな先輩が言ってくるとはとても考えられなかった。

 それには意味があるのだろう。たぶん、明日でなければならない何かが。

(……明日聞けば教えてくれるのかしら?)

 そう考える時点で私の答えは決まっていた。

 せつな先輩のことをまじめと評したが、私だって真面目だ。というか、普通なら一日学校をサボって遊びに行くなどしないことだ。

 けれど、せつな先輩が望むのであれば私はそれに応えるつもり。

 だってせつな先輩が私に何かを求めてくるなんてことはめったにないんだから。それほど先輩にとっては意味のある何かなはず。なら、私はそれに全力で応えてみせる。

「……何か、か」

 私はため息のようにつぶやいて目にかかった湿った髪を払った。

 そんなのものが本当にあるかしらね。

 何かがあるということを確信のように思っているくせに、まるで逆のことふと考えてしまった。

 今の関係。ただの先輩後輩以上の関係になって、もう半年以上が過ぎた。

 その半年の間、何もなかったわけじゃない。

 出かけたことはないけれど、寮の中でなら二人でお茶をしたりするし、たまになら先輩のほうから部屋を訪ねてくることもあった。

 クリスマスだってたまたまではあったけれど、誰もいないロビーで二人きりで話したりもした。

 だから、何もなかったわけじゃない。確実に話すことも時間も増えてはきている。

 けれど、決定的な何かがあったわけではなく今も私とせつな先輩は、仲のいい先輩と後輩でしかない。

 そして、その決定的な何かがあったわけでもない、ただの平日である明日に何かがあるとは考えられなかった。

 少なくても理由はない。

(……嫌ね)

 少しだけの不安。

 ずっとこのままなんじゃないかと考えることはやはり増えていた。このままの状態でせつな先輩を思い続ける覚悟はある。

 しかし、このまませつな先輩がいなくなったら、卒業してしまったらどうなるのだろう。一生会えないということだって考えられる。その時私は、今の覚悟を持ち続けていられるのだろうか。

 私たちの関係が始まった日、先輩は言っていた。

 友原先輩を思う気持ちが小さくなっていくのを感じると。

 私もそんな時が来るのかしら? 

 来て、不安に思って、今の時間が何だったのかって思う日が来てしまうのかしら。

 ……今の私は嫌いじゃない。

 恋で変わった自分。嫌いじゃない。

 でも、恋が終わってしまったら、実らなかったら、私は今の私をどう思うのだろう。

「…………ふふふ」

 一年前までは絶対に考えようともしなかったことを真剣に考えている自分をおかしく思って鼻で笑った。

(私も、女の子ね)

 恋の話を遠巻きに聞いては、ありえないとか愚かしいとか思ったものなのに、今はそんな気持ちがわかるようになってしまった。

 それはきっと私にとって悪いことではないだろう。

 そう、まだまだ私は恋をしている。

 明日何かがあるかわからない。

 これからどうなるかわからない。

 でも、いつかのために私はせつな先輩のことを想いつづけよう。

 明日が何の日か、せつな先輩にとってどういう意味を持つ日なのかわからない私はそうして運命の日を迎えていくことになる。

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