胸が、うるさいくらいになっている。
ドクン、ドクン。ドクン。
「せつな、先輩」
胸をうつ鼓動、それはまるで、新しい世界のドアを叩くノックのようだ。
「渚。あなたが欲しいわ」
もう一度まっすぐに見つめられて、私を新しい場所へと誘う言葉を投げかけられた。
取られた腕から直に伝わってくるせつな先輩の熱は私がこれまで感じたどんなぬくもりよりも暖かく、嬉しくて。
「あ……」
でも、まだあまりに唐突すぎることに自分の感情を処理仕切れなくてうまく言葉が出てこない。
「っ!」
思わず目をそらしそうになった私をせつな先輩はグイっと引き寄せた。左手で腕を取ったまま、右手を私の腰に回してまるでダンスでもしているかのような格好にさせられた。
(ち、近い)
先輩の顔が、吐息が、香りが、ぬくもりが。
心が。
「渚。答えを聞かせて」
迷いのないせつな先輩の声に私の体はただ熱さを増すばかり。
「わ、私は……」
こんなときが来るのを待っていたはずなのに。ずっと、このときを待っていたはずなのに。
目があわせられない。
(けれど……!)
ふと、頭をよぎる先輩への告白。
そうだ。あの時に誓ったはず。
この人をずっと好きでいて見せるのだと。
この人が生きてきたすべてに意味をもたせて見せると。
「私は、もうあなたのものですよ。これまでも、これからもずっと。せつな先輩のことが大好きなんですから」
言い終えた瞬間。
またかぁっと顔が熱くなるのを感じた。
もっと恥ずかしいことだって言ったことあるというのに、今はそれ以上に恥ずかしくてたまらなかった。
それはきっと、想いが通じ合っているから。
「渚……私もあなたが好きよ」
せつな先輩が嬉しそうに私のことを呼んで、私の腰に回していた手に力をこめ、さらに私を引き寄せた。
直接取られている手だけではなく、胸と胸が合わさる。
(あ……)
すると、鼓動が聞こえてきた。
トクン、トクンと。
私の胸の音じゃない。
先輩の音。不規則で、速く、心の乱れを示している。
(先輩も、なのね)
私が好きだって言ってるのに。ずっと好きでいてみせるって言ってるのに。今日だって、好きだったら一緒に来てっていう話だったのに。
ドキドキしてる。
恋、してるから。
恋、してくれているから。
「ずいぶん待たせてしまったわよね。ごめんなさい」
「ふふ、違いますよ」
「?」
「こういう時は、ありがとうというものです。そう、本では読みました」
先輩もドキドキしてるんだということを知った私は逆にどこか落ち着いて、少しだけいつもの調子を取り戻していた。
「……まったく渚は……」
せつな先輩はあきれたように笑ってから
「ありがとう、渚」
あの天使のような笑顔をするのだった。
「……せつな、先輩」
そして、見つめあう。
潤んだ瞳にお互いの好きな人を写して。
「渚」
見つめあう。
せつな先輩の過去を私との今につなげて。
「あ……」
お互いの瞳に好きな人を移しながら、二人の未来を見つめる私たち。そんな中、せつな先輩は私を引き寄せると
「っ――!!」
瞳を閉じて、私に顔を近づけてきた。
そ、それが何を意味するのかわかった私は。
「っ。ま、待ってください!!」
思わず制止の言葉を発していた。