今日も、せつな先輩と待ち合わせ。
同じ寮に住んでいるのに待ち合わせというのもよく考えたら妙な話ではあるけれど、せつな先輩は待ち合わせを提案することが多い。
付き合いだしたころは、理解不能でどうしてそんな無駄なことをするのかと問いかけたこともある。
そうしたら、そっちの方が楽しいからというよくわからない答えが返ってきた。
そう、確かにその時はまるで分らなかった。
けれど、今はわかる気がする。
「♪」
この前と同じ小さなサロンのソファに座ってせつな先輩を待つ私は上機嫌だった。
待ち合わせのほうがいいという理由。今はわかる。
こうして待っている時間も、楽しみだから。何を話そうとか、何をしようとか、早く来ないかなとか、そんなことを考える時間も楽しみ。
そう考えられる。
(そういうところじゃせつな先輩に近づけてるのかしら?)
少しでも前に進めているのなら、それはきっといいことよね。
すごい遅いのかもしれないけれど、それは私の望む変化だから。
もっとも、今上機嫌なのは、昨日の陽菜のおかげだけど。
弱気になっていた私を陽菜が支えてくれたから。間違いを正してくれたから。
キスは、特別なもの。誰がどう考えようと自由だけれど、私にとってはそうだ。
義務感や、周りに流されてするものじゃない。そんな私をせつな先輩も望んではいないはずだ。
確かに普通じゃないのかもしれないけれど、それがどうした。
普通である必要なんてない。私は、私たちはお互いのペースで進んでいくと誓ったのだから。
(まだかしら?)
予定の時間よりも早く来たのは私だけれど、ふとそんなことを思って周りを見渡した。
(そういえば、この前はびっくりしたわよね)
眠ってしまっていたら、せつな先輩が私のメガネを取るなんていたずらをして、そんなことをする人とは思ってなかったからいつも以上に驚いた。
(……それとも、いつもあんなことするのかしら?)
いつだったか夏休みでも昼寝姿を眺めてたって言っていたし。
「……………」
この時の私はめずらしくハイになっていた。昨日陽菜に気づかせてもらったことで、いつも以上に自分を肯定できていたし、それが今まで続いて待ち合わせも楽しみに思っている。
そんな浮ついた心が私にあるいたずら心を芽生えさせた。
(……寝たふりでもしてみようかしら?)
何にもしないのならそれはそれでいいけれど、この前みたいにへんないたずらをしようとしたら実は起きていたというのも面白いかもしれない。
(普段は私が驚かされることのほうが多いんだし)
そんな軽い気持ちで私は、予想外のことをももたらすいたずらを始めてしまうのだった。