「はぁ〜あ」
またため息。
「……はぁ」
体を熱いお湯に揺蕩わせ、浴槽の壁に背中を預け、水面に浮かぶ自らの顔にため息をつく。
(あぁ、なんであんなことしちゃったのかしら……)
それは、昼の盗み聞きのこと。あの場では、いっそと思って出て行こうとすらしたのに、陽菜に声をかけられた瞬間。自分がいかに浅ましいことをしてるのか気づかされ、逃げてしまった。
人として恥ずかしいことと言わざるを得ない。覗き見なんて。
そういうところからほころびが生まれることだってあるのに。それが取り返しのつかないことを招くことだってきっとあるのに。
(でも、気づかれてないの、かしら……?)
夕食の時、一緒の机でこそ取らなかったものの、軽く挨拶はしたし、さっきお風呂に来るときすれ違った時も、お互い一人だったのに何にも言われなかった。
覗きがばれていたのなら何かしら言って来てもよさそうだけれど、それがないということは大丈夫だったということなのかもしれない。
「……はぁ」
もっとも、そうだとしても私の罪悪感が消えるわけではないけれど。
それと、聞いてしまったことも。
「……………」
私の小さな胸には収まりきらないほどの気持ち。
(……小さいは関係ないけど)
そんなことを考える余裕くらいはあるらしい。だからどうしたということではあるが。
(でも、せめてこのくらいあれば、違うものなのかしら)
と、ふと見えたものにそんな感想を抱いて
(っ!?)
「せ、せつな、先輩!?」
顔をあげた私の目に想像通りの顔がうつった。
「っ、めずらしく反応がいいわね。こういう時大体ぼーっとしてるのに」
「い、いえ……そ、の……な、なんで……」
「うん、ちょっとね」
せつな先輩は言いながら私の隣で浴槽の壁に背中を付けた。
(あ………)
やだ、胸がドキドキしてる。小さな胸がどくどくと早鐘を打っている。
それは、隣にいながら私ではなくどこか遠くを見つめる横顔を見ると余計に高まった。
「……それで、渚」
「っは、い」
もっと、早くに気づくべきだった。
わざわざすれ違った後にここに来たのだ。
「……あんまりいい趣味じゃないんじゃないのかしら?」
「……っ!!」
胸が飛び出るくらいにはねた。
夕食の時とは違って、一人の時にすれ違った後にここにきた。
それは、つまり
「……どこまで、聞いてた?」
二人きりで話したいことがあるからに決まっている。