受験の発表って言ったら昔は現地まで見に行ったり、手紙が来るのを待たなければいけなかったのかもしれない。

 まぁ、今でもテレビではそういうのが取り上げられたりもするけどそんなのはもうほとんどパフォーマンスみたいなものなのかもしれない。

 今の世の中ではインターネットを使っての発表が普通となっていて、どこにいても見ることが出来る。

 まったく便利な世の中になったと思いはするけれど、

 だからと言って

「あ………」

 そこにある悲喜こもごもの感情は変わることはない。

 寮に設置してあるパソコンで受験の発表をみた私はぐっとこぶしを握った。

「よし」

 ついで小さくつぶやきながら、私は冷静にパソコンの電源を落とす。

 今この部屋にいるのは私一人ではない。

 この時期だ。別の大学の受験で発表日が重なることもある。今部屋にいる他の人の結果がどうなったかまではわからないが、少なくても今この場で大げさに喜ぶというわけにはいかない。

 そういう事情もあって私はテキパキとその場を整理すると部屋を出ていって自室に向かう。

「……ふ……ふふ」

 わずか数分の距離だけれどその間に笑みがこぼれていく。

 結果を見た瞬間にも確かに喜びはあったけれど、少し時間を置くとその喜びの意味に私は笑みをこぼす。

 だって将来の幸せが約束されたんだから。

 もちろん、大学に受かったことはうれしいけどそれ以上にそっちの方が喜びは大きい。

「ただいま」

 喜色を隠し切れずに部屋のドアを開けるとそのにいた陽菜が

「おかえり、その様子だと受かったみたいだね」

 私が何も告げる前に察してくれた。

「うん。無事合格」

「おめでと」

「ありがとう。大丈夫とは思ってたけど、結果が確定するまでは不安だったからね。これで」

「これで朝比奈先輩と一緒に暮らせるね」

「っ……」

 別にそう続けようと思ってたわけじゃないけど、それを一番うれしく思っているのは事実だから何も言い返せない。

「早めに朝比奈先輩に教えてあげた方がいいんじゃないの〜?」

「………………」

 陽菜があおるように言ってくるのにむっと来ないでもないけどこれこそ言い返す言葉がない。

 合格を確認したとき一番に思い浮かんだのはせつなさんの顔なんだから。

「はい、ケータイ」

「……ありがと」

「さて、と。私はその辺ふらふらしてこようかなー」

 必要以上に気を利かせる陽菜にはいろいろ複雑なものを抱かないわけではないけど、一刻も早くせつなさんに伝えたいという想いがあるのも本当で陽菜に対することよりも今は素直は欲求に従って電話を掛けることにした。

 せつなさんは携帯を常に手元に置くタイプではなくて電話を掛ける時には多いのだけれど

「はい」

 ツーコールを待たずにせつなさんは電話を取った。

「あ、渚、です」

「ふふ、わかってるわよ」

「あ、そう、ですよね」

「……ん、それで、どうだったの?」

 こういうのはデリケートな問題で普通せつなさんの方から聞くものではないのかもしれないけれどあっさりと聞いてきた。

「合格ですよ」

「おめでとう。部屋、片づけておかないといけないわね」

 わたしたちは淡泊に言葉を交わした。私のことを信じてくれているというのもあるんだろうけど、それ以上に合格発表からすぐに連絡をしたということが用件を物語っている。

「はい。お願いしますね」

「ところで私に早めに連絡くれたのは嬉しいけど、親御さんにはちゃんと連絡してるの?」

「あ、いえ、せつなさんに報告してからと思って」

「……ふぅ。普通そっちが先でしょう」

「それは……そうですけど」

 私は少し落胆した声を出す。せつなさんはこういう時に常識的なことを言う。恋人と親なら恋人を優先してもいいのかもしれないけれど、大学受験ということを考えれば一番優先すべきは親かもしれない。

「でも、私のことを一番に思ってくれたのは嬉しいわよ」

「っ……はい」

 私の気持ちを知ってか知らずかせつなさんの優しい言葉に私は喜色めいた声を出す。

「それとも早くご褒美のことを話したかったから?」

「そういうわけ、では」

 ないけれど、そのことをまるで考えなかったかといえばそうではなくて……

(だって、決めていたことだから)

「私は特にこれっていうのを決めてなかったんだけど渚は何かある?」

「………はい」

「へぇ、何?」

 ご褒美とやらが私が内容まで決めていいものなのかはわからなかったのだけれどもしそうだったと考えていたこと。

 それは

「デート、がしたいです」

「……? デート」

 せつなさんが電話の向こうで首をかしげる姿が何となく想像できた。

「それくらいいくらでもしてあげるけど、というかこっちに来ればいつでもできることじゃない? それがご褒美でいいの?」

「その、ただのデートというわけではなくて」

「ん? どういうこと?」

「卒業式に来てほしいんです」

「卒業式って、渚の?」

「はい。その、卒業式自体に出席とかは無理でしょうけど、そういうんじゃなくて、最後にここで一緒に過ごしたいんです。こんな感傷無意味かもしれないけれど……でも、せつなさんと出会えたここでの最後の時間をせつなさんと一緒に過ごしたいんです」

 せつなさんのご褒美と言われて一番に思いついたのはこのことだった。私の自己満足でしかないことはわかっているけれど、この来たときには何も期待をしなかったこの場所で大切な人と出会えたこの場所で、私にとってなによりかけがえのないものになったこの場所でせつなさんとの時間を過ごしたかった。

「あの、ダメ、でしょうか?」

 せつなさんからの返答がなく私は不安になりながら問いかける。

「ううん、ちょっと驚いただけ。ダメなわけないじゃない。わかったわ、卒業式の日そっちに行く」

「は、はい! ありがとうございます」

 はっきりと喜びを表して答える。

(不思議な、気分)

 三年前、絶対に来たくないと思っていた場所を離れることに寂しさを感じているんだから。

(その日を私はどう迎えるのかしら)

 せつなさんに来てほしいとは言ったけれどどう過ごしたいかまでは考えていたわけではなくてその日の自分が想像できない。

 けれど、

(せつなさんと一緒なら)

 それだけを今は確信してご褒美の約束に希望を抱くのだった。

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