「にしても、広い部屋ですよね」

 せつな先輩の部屋で一緒にご飯を作りながら私は部屋を見回してそう口にする。

 部屋数こそ、今いるダイニングキッチンと寝室兼居室だけだけどどちらとも二人暮らしをしている天原の寮と同じくらいの大きさがある。

 地方でもないのに大学生の一人暮らしとしては十分すぎる大きさ。むしろ大きすぎるんじゃっておもうくらい。

 実際、まだ住んで一か月といいうことを差し引いてもモノよりも壁が目につく。

「お姉ちゃんも私も特待生でお金があんまりかからなかったからねその分いい部屋にしてもらったの」

「ふーん。そういうことですか」

 家賃とかお金のことは正直よくわからないけどいい部屋に住めるんだったらそれに越したことはないかも。

 と、その程度に考えていたけど

「別に来年渚が一緒に住みたいって言って来ても大丈夫なようにって準備してるわけじゃないわよ」

「っ!!?」

 ゴトン。

 いきなりな言葉に思わず切ろうとしていた野菜を落としてしまう。

「あ、もう。何やってるのよ」

「せ、せつなさんが変なこと言うからじゃないですか」

「変ってことはないでしょ。そうなるかはともかく、それでも大丈夫だっていっただけじゃない」

「それは……」

 そう、かもしれない。

 冷静になれば過剰に反応するところじゃなかったかもしれない。あくまでせつなさんは例え話としていってきただけなんだから。

 なのに必要以上に動揺して、顔も赤くなってる。

(ひ、陽菜のせいよ!)

 いきなり私は陽菜に責任を押し付けようとする。

 だ、だって昨日の陽菜がそれこそ変なことを言うから。

 

 

「ねぇ、なぎちゃん。もし朝比奈先輩と同じ大学言ったら一緒に住んだりするの?」

「……なによいきなり。そんなの考えたこともないわよ。大体同じ大学にするかもわからないのに」

「ふーん。でもさぁ、どうせなら一緒に住んだ方がいいんじゃない?」

「まぁ、そうなることもあるかもしれないけど、わからないわよ。まだ先のことなんだし。というかなんで陽菜が気にするのよ」

「だって、そっちの方が楽しそうだから。好きな人とずっと一緒ってやっぱりいいって思うよ」

「それは……否定しないけど」

「それに……」

「それに?」

「一緒の方に住んでた方が色々よさそうじゃない?」

「? 色々?」

「たとえば………夜一緒のベッドで寝たり、とか?」

「一緒の……っ!!? な、何言ってるのよ」

「えー、別にそんなにおかしいことは言ってないって思うけど? 一緒のベッドで寝るっていっただけなのに。なぎちゃんは何かするって思ったのかな〜?」

「っ〜〜〜、し、知らないわよ!!」

 

 

(……今思い出してもくだらない会話だわ)

 せつな先輩はそんな安易なことを考えるような人じゃない。

 そんなのわかってるじゃない。

(わかってる……けど)

 結局陽菜の言うことが頭に残ってなかなか顔を熱さが引かない私だった。

 

 

 陽菜のせいで一緒の料理も、夕食もどこかぎこちなくなってしまった私。

 せつな先輩はそれに気づいてはいるみたいだけど原因まではわかるわけもなくて私の態度のちょっと戸惑っている気がした。

 だからどうにかしなきゃって思ってはいるんだけど、夜の時間が近づくにつれて陽菜の顔が浮かんで私を落ち着かなくさせる。

 ピピピ。

 せつな先輩のベッドに座って並んでテレビを見ていた私たちの耳に電子音が聞こえてきた。

「お風呂湧いたみたいね」

「渚、どうする?」

「せつなさんが先でかまいませんよ」

 恋人なんだからそんなに気にする必要はないのかもしれないけど、こっちはお邪魔をしている立場。それに合わせた回答をしたつもりなんだけど。

「じゃなくて、一緒に入るかって聞いたんだけど?」

「はぇ!?」

「そんなに驚くこと? 別にもう数えきれないくらい一緒に入ってるじゃない」

「そ、それは、そうですが……」

 寮の大浴場で、みんなと一緒っていうのと、二人用じゃないお風呂で二人きりっていうのは全然意味が……

 しかも

(また陽菜の顔が浮かんじゃったじゃない)

 顔がまた赤く……

「ふーん。渚は私とお風呂入るの嫌なんだ。そうなんだ。ざぁんねん。せっかく渚の胸が少しは成長したかって確かめようって思ったのに」

「っーーー」

 こ、こっちは今そういうことに敏感になってるのに冗談でもそんなこと言わないでください! 

 なんて口に出せるわけはないけど体は素直に反応して真っ赤になる。

「…………………」

 せつなさんがそんな私をじっと見つめてることに気づけないで私は目をそらすだけで精いっぱい。

「じゃ、お言葉に甘えて先に入らせてもらうわ」

「は、はい」

 待ち望んでいた言葉にはなんとか返答できて部屋を出るせつなさんを見送る。

「……………」

 会話のなくなった部屋にテレビの音だけが響いて……

「あー、もううるさいわよ」

 それが気に食わなくてテレビを消すと

 ポス、と軽い布の音が聞こえてきた。

(?)

 それが何か一瞬わからなかったけど、また似たような音。

 さらに衣擦れの……

(ま、まさか……)

 せつなさんが着替えている音……?

 寮の時と違って私たちの他に人はいないんだし間違いないと思う。

 二枚脱いだみたいだから今は……

(って、何考えてるのよ)

 これじゃ私が変態みたいじゃない。そもそもせつなさんの裸なんて今までだって散々見てきたんだから気にする必要ないじゃない。

 けれど、さっき自分で思ったように寮でみんなと一緒にとこうして二人の部屋でというのじゃ意味合いが違って……

(っ〜〜。いつから私はこんな人間になったのよ)

 ボスン。

 自分があまりに私らしくないことを考えているのが悔しいというかバカらしくて私はベッドに体を倒した。

(……陽菜め)

 他人事だと思って前からよくこんなことを言ってくる。それが冗談だっていうことくらいわかってるけど、恋人として意識しちゃうのは仕方なくて……

「まったく」

 せつなさんに変なやつだって思われちゃったらどうするのよ。

 なんて私はどうにか陽菜への八つ当たりで意識を散らしたけど、

(……なんか、いい匂い)

 不意に鼻孔を付いた香りに気を取られる。

 甘くて心が落ち着くような……

(あ、せつなさんの……)

 ベッドで感じるそれはせつなさんの香りだ。

 お香とか、ポプリとか、香水とかそんなものなんかよりも断然私の心を落ち着かせも、高揚もさせてくれる一番好きな香り。

(まぁ、このくらいならいいわよね)

 陽菜の言葉をきっかけに心を乱してしまった私だけどとりあえずは好きな人の香りに包まれて心を落ち着かせることができた。

 冷静になればベッドで横になるということも十分陽菜の言うことを意識するようなことだけどせつなさんの匂いが嬉しくて私は、いつの間にかそのままベッドの上で眠りに落ちて行った。

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