「んん………」

 なんだかいい夢を見ていた気がする。

 何か温かいものに包まれながら甘い香りを感じて、まるで春の陽光がめいいっぱいに注ぐお花畑で寝ころんでいたようなそんな極上の感覚。

「あ、起きた?」

 それと、好きな人の声。

「んぁ……」

 私は鈍痛のする頭のまま寝ぼけ眼でその声の方を見ると

「せつな……さん……?」

「おはよう、渚」

 目の前、体温を感じられる距離に横になったせつなさんがいて優しく微笑みかけてくれた。

「おはよう、ございます……」

 まだ働いてくれない頭が私の反応を鈍らせる。

(あれ? 今どうなってる、の?)

 確か私せつなさんのベッドで寝てて……それから?

「っ!!?」

 いつのまにか掛布団がかかっててその中にせつなさんと二人でいる今を理解した私は驚きに目を見開いた。

「な、なな…っ」

 けれど、言葉が出てこなくて顔を赤くしたまま唇をわななかせるのみ。

「お風呂から出たら渚が寝てたの。起こしてもよかったんだけど、気持ちよさそうに寝てたからね」

「そ、それはありがとう、ございます……」

 それはいい。今日は移動とかで疲れてたのは事実だし、そこは気を使ってくれたことに感謝をするわ。

 けど

「な、なんでせつなさんまで一緒のベッドに寝てるんですか」

 こっちはそうですかで済ませられることじゃない。

「私のベッドに私が寝てるのが何か問題?」

「っ」

 そ、そう言われると……

「い、いえ、で、でも……」

「それとも、渚は私と同じベッドに寝るのが嫌っていうことかしら?」

「そ、そういう意味ではありません!」

 それとこれとは問題が別。一緒がどうとかじゃなくて、無断でというか、了承もなしにというか……

 理由を探すけどもともとせつなさんには非がないから結局何も出てこない。

「ふふ」

 私がよくわからない恥ずかしさでいっぱいいいっぱいになっているとせつなさんは楽しそうに笑った。

 私が好きだけど、嫌いな顔。

「な、何笑っているんですか」

「渚が必死に否定してくれるのが嬉しかっただけよ」

「っ〜」

 ほら、私のことを子供だってばかにして。

 だから私は言葉を失くして

「し、知りません。私もお風呂入らせてもらいます!」

 と、時間稼ぎにしかならない場所に逃げこむしかなかった。

 

 

 渚は本当に可愛い。

 久しぶりに渚に会ったけど、一日一緒にいて改めて思った。

 顔を合わせた時の嬉しそうな表情も。ちょっとしたことでも嫉妬するやきもちやきなところも。一緒にお風呂入るって聞いたときの慌てっぷりも。ベッドで子猫のようにうずくまる様子も。

 それに。

「なっ、ふ、布団がないってどういうことですか」

 とってもからかいがいがあるところも。

「そのままの意味だけど?」

 お風呂から上がってきた渚をベッドに上げて髪を梳かしてあげながら、その旨を伝えると渚はお風呂のせいじゃなくて顔を赤くする。

「わ、私が泊まりに来るのは決まっていたんですから用意しておくものなんじゃないんですか」

 それはもっともなことね。愛しい愛しい渚のためにそのくらいの準備はしておくのはおかしくはないこと。

 けれど。

「渚が来たら一緒のベッドでいいかと思って」

「っ!」

 あ、また照れてる。頬を染めて、恥ずかしさと嬉しさを混ぜた私の好きな渚の表情。

 このまま押しても渚は了承してくれるでしょうけど、せっかくだからもう少しからかってみようかしら。

「あーあ。渚が嫌なら私が床で寝るわ。毛布はあるし」

 私はあからさまに残念そうな声を出してベッドから降りた。もちろん、背中越しに渚がどんな反応をするのか楽しみに待ちながら。

「ま、待ってください。そ、それなら私が床で寝ます」

 それはなかなかの答えね。でも、

「それは駄目よ」

「なぜですか」

「渚は私の一番大切な相手なのよ。そんな相手がはるばる訪ねてきてくれたのに床で寝ろなんて私に言わせるの?」

「そ、それなら私だって同じです。せつなさんに床で寝ろだなんて………」

 渚は申しわけなさそうにうつむいている。

 それはただ済まないっていうだけじゃないでしょう?

「こ、今度来るときには用意しておいてくださいよ」

「今度、ね。じゃあ、明日も一緒に寝てくれるっていうことでいいのかしら?」

「っ」

 やっぱりそこまで気が回ってなかったみたいね。

(ほんと渚ってば可愛いわ)

 そう思いながら私は恥ずかしさに頬を染めて、コクンと頷く渚を愛しく思うのだった。

3/5

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