冬のお風呂はちょっぴり長め。もともと冷えてるっていうのをあるけれど、寒いのもあって湯船が離してくれない。

 そんなわけで私はせつなさんと話してから三十分近くたってからお風呂を出た。

「せつなさん、お風呂出ましたよ」

 寝室に戻ってせつなさんに声をかけると、せつなさんは。

「ん〜……うん」

 どこか上の空な様子で頷いた。

「?」

 そういう経験のない私はせつなさんに何が起きているのかわからずに髪を乾かそうとベッドに座る。

「…………?」

 髪を乾かしながら私はせつなさんを見てみるけど、せつなさんは私が戻ってきた時からほとんど動かず、お酒にも手を付けてない。

「せつなさん、飲み終わったのなら片づけてくださいって言いませんでしたっけ?」

 なんて、私はせつなさんの身に何が起きているかも知らずに何でもないことを要求して

「んふふ……」

 やっとせつなさんの様子がおかしいことに気づく。

「せつな、さん?」

 ただまだこの時はどうしたんだろうという程度で、せつなさんの身に起きている本質を理解できず

「なぎさぁ……」

 頬を染めたせつなさんにあっという間に迫られてしまった。

「な、なんですか?」

「んふふ、渚ってほんと可愛いわね」

「い、いきなり、な……」

 んですか? と驚く間もなく

 ちゅ。

(は?)

 って驚いたのはキスをされたからだけじゃなくて、

「んん〜〜〜〜!!!」

(し、舌が………)

 今までしたことのないキスをされたから。

(な、何? え? 何が起きてるの?)

 行為としては何をされているのかわかってる。

 ううん、わかんない! だって、だってこんなの……

「ぷあ……んっ!?」

 驚きのあまりにせつなさんから離れようとするけど、せつなさんは唇が離れた瞬間に私の体を抱き寄せて再び唇を合わせてきた。

「くちゅ……ちゅぷ……じゅぷ…ぁ、ん」

(な、に、これぇ……)

 暑くぬめった舌が私の口の中に入ってくる。

 入ってきて、いろんなところを舐められて舌が絡んできて……

(甘くて、ちょっと……苦くて……)

 これ……お酒の味? 

「ん、はぁ……うふふ、渚とキスしちゃった……」

 上気した頬、とろんとした瞳。間延びした声。

(……酔っぱらってる、の?)

 状況を考えれば、多分それが正解だと思うけど、それ以上に今は……

(キス………しちゃった……)

 このことが思考のほとんどを支配する。

 嘘。だって、こんなの初めてじゃない、けど……でもこんなのは初めてで……

 数回だけこういうキスをしたことはある。でもすごく恥ずかしくて舌先をちょっと触れ合わせる程度だった。

(今の……なに……?) 

 種類としてはしたことのあるキスだったのかもしれないけれど、あんなのは知らない。

 今までにしたどんなキスよりも激しく、情熱的で……

(それに……)

 言葉が出ない。私の中にさっきの気持ちを表現する言葉が見当たらない。

 それほど私には衝撃的すぎる出来事だったけど、これはまだ序の口だったらしい。

「ねぇ、渚……もう一回しましょ?」

「も、もう一回……?」

「うん、だって、渚とするのすごい気持ちよかったの……だからもっとしたくなっちゃった」

「ちょ、ちょっと待ってください」

「ん、どうして? 渚は私のするの嫌なの?」

「い、嫌とかそういうのでは……とにかく一度冷静になって……」

 今、この状況はまともじゃない。そんな状態でなんて……

「もう、渚ってば文句ばっかり……いいわよ。そんな意地悪な口は塞いじゃうから」

「え……? っ!!??」

 宣言通り、なんとか冷静さを保とうとした私の口を塞がれる。もちろん、せつなさんの唇で。

 チュル……ぱちゅ、ちゅ。

「ん、ふ……はっ……あ、や……んっ」

 舌が……舌が……

 絡んで、舐められて、吸われて……

 チュゥゥ……じゅぷ、レロ……

(や、だ……なに……これぇ………)

 せつなさんの舌が私の中をかき回してる。そのたびに体が熱くなって、舌が痺れて……頭がぼーっとしていく。

(溶け、ちゃい……そ、う……)

 こんなキスがあった、なんて……

 私はいつしか抵抗もやめてせつなさんにされるがまま。

「ふ……ぱぁ……」

 十秒近くせつなさんの好きにされて、唇が離れると二人の間をつなぐ透明な糸が落ちていく。

「ぁ………」

 私はその淫靡にも思える光景を現実感のないまま見つめると

「ふふ…………ふふふふ、また渚とキスしちゃったぁ……」

 私以上に現実感を失ったせつなさんがまた舌足らずな声を出した。

「ねぇ……渚」

 そして、そのままベッドに手をついてぐいっと迫ってきた。

「な、んです、か…………」

「もっと……いい?」

 ベッドに手をついて体重をかけたことで、せつなさんは私を見上げる形になっている。

 桜色に染まった頬。濡れた唇。潤んだ瞳で上目づかい。

「っ……んく……」

 その蠱惑的な姿に私は喉を鳴らして

「だ、だめ、です……」

 どうにかそれを口に出せた。

 こ、これ以上あんなことされたら持たない。心も体も。

「えー、どうして? いいじゃない渚。もっとしましょ」

 私の意見を聞く気なんてないらしくてせつなさんはぐいっと迫ってきて

「わっ!?」

 体だけをそらして逃げようとしていた私はバランスを崩してベッドにあおむけに倒れてしまう。

「ふ、ふふ……渚。可愛いわ」

 私を見下ろすせつなさんからにやりと邪な笑いを浮かべてる。

 起きなきゃって思う前に、

 ガバ

「え?」

 一瞬何が起きたかわからなかった。

 でも、すぐにお腹に肌寒さを感じて何が起きたのか理解する。

(ぱ、パジャマが……)

 めくりあげられてる。

「な、ななな……なにするんですか!」

「んー? 渚がどんな下着つけてるのかなって気になっちゃって」

「な、あ……うぇぇ……あ……」

 こ、言葉が出ない。

「きゃあ!?」

「うふふ……緑かぁ……渚に似合ってて可愛いわ」

「さ、触らないでください……」

 せ、せつなさんが私のむ、胸を……触ってる。こ、こんなの今まで一度も………

(ど、どうなっちゃう、の……?)

 普段のせつなさんなら私の話を聞いてくれるけど、今のせつなさんには何を言っても無駄な気にしかなれなくて……

「うふふ……うふふふふ……渚…好きよ」

(も、もしかして……?)

 このまま……? 

 そんなことはないって思うし思いたい。でも今のせつなさんには……

(い、いつかはって漠然とは思ってた、けど……)

 で、でも、こんないきなり……それも【同意の上】なんて言えないような状況で……?

「んっ……渚」

「っ!!?」

 また、キス。それも体を重ねられながら。

 ちゅ……ぱ。くちゅあ……ちゅぷ……ちゅぅっぅ。

「あ……せつな、さん」

 頭が……頭が、ぼーっとする。何にも考えられ、ない。

(本当に……どこまでするつもりなんだろう……?)

 どこかそれを他人事のように感じるのと同時に……

(……せつなさんに、なら……)

 そんなことを思う自分も少しだけど存在して、少なくても積極的な抵抗をしなくなった私にせつなさんは

「んっ……はぁ……あ、渚……んっ……ふ……ん……」

 ドサ。

 急に糸が切れたように私に倒れ込んできた。

「あ、あの……せつな、さ……」

「ん……ふふ……ん……渚……ん……くぅ……スー」

「へ!?」

 思わず大きな声が出た。

 ね、寝てる……?

「……ん……くぅ……」

「………………………………」

 安心した。

 正直言って、安心したわよ。

(けど………)

「…………………………………」

 私はどうにもやりきれない気持ちを抱えて、せつなさんのことを睨みつけるのだった。  

 

 

後日談3-1/後日談3-3

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