(ちゃんと謝ろう)
図書館で散々悩んだ結果、私が出したのはそんな当たり前すぎる答え。
私は許されないことをした。相手が恋人だからといっても、相手の意思を無視してしていいことじゃない。
お詫びに渚の好きなアイスを買ってお昼過ぎには帰っていった。
「渚……ごめんなさい」
リビングのソファに並んで座りながら、そのアイスを食べ謝罪の言葉を伝える。
「思い、だしたんですか?」
「え、えぇ。全部じゃないけど、大体は」
「……そう、ですか」
この時に少し様子が変だなとは思ったの。
もう怒っているような雰囲気はなくて、代わりに何かもっと別のことを思っているってそのくらいは何となくわかった。
「本当に、ごめんなさい!」
ただ、私は謝らなきゃっていうことだけで頭がいっぱいで渚の気持ちも覚悟も考えずにそう言ってしまった。
「あんなこと……いきなりされても困る、わよね……嫌に決まってるわよね」
しかも、わざわざ渚が言われたくないことを言ってしまう。
「………………………嫌なことだって思ってるんですか?」
「え?」
「せつなさんにとって、私とキスすることは謝らなきゃいけないことっていうことなんですね」
「え? いや、そういう意味じゃなくて……急にっていう意味で」
渚、怒って、る?
「……急にだとしても嫌なことだなんて思ったこと、ないですよ」
「え、で、でも……」
「いいです、もう。せつなさんがどう考えてるかよくわかりましたから」
渚は明らかに不機嫌になって持っていたアイスをそのままに席を立ってしまう。
「あ、ちょ、っと渚!?」
そのまま渚は私に振り向いてくれることもなく寝室の方に消えてしまった。
「え……っと……?」
残された私は渚がどうして起こったのかその理由がわからず、渚の残したアイスを食べるのだった。
結局ちゃんとは仲直りをしないまま夜になってしまった。
「……はぁ」
私はお風呂場で髪を洗いながら小さくため息。
(……せつなさんに子供って思われてるんだろうなぁ)
謝られたことを思い出すと、それを意識せざるを得ない。
心の中でどう思っているかはともかく、少なくても表面上は子供としか思われていない。
そうじゃなきゃこれだけ一緒に住んでいて、あんなに真剣に謝られる理由がない。
きちんと謝ってくれるというのがせつなさんのいいところだし、その気持ち自体は嫌じゃないけど。
昼間のあの決意はなんだったのってやるせない気持ちになる。
(せっかく…決意……した、のに)
すごい恥ずかしいし、正直いって怖いし、でも……いつかはって憧れみたいなものは持っていたし、このままでいいのかなって悩んでたもの本当だから。
せつなさんが望むのなら。こんな私を求めてくれるのならって決意をした、のに………
「……はぁ」
髪を洗い終えてシャワーを止めるとまたため息。
「………………子供、だけど」
そして、泡の洗い流された体が鏡に写るのを見て一言。
子供みたいとまでは言わないけど、お子様体型。
ほんのりとした胸は結局高校の一年の頃からサイズが変わることなく、身長も百五十センチを多少超えた程度。
童顔ではないつもりだけれど、この体型のせいで中学生に間違われることもある。
(……でも、私はその程度なのかも)
ある分野への知識というか、意識は。いくらなんでも中学生とは言わないけど、年相応とはとても言えない。
「……んっ………」
でも……子供でもない。
昨日の、せつなさんと今日の昼間のことを思い出すとそれを意識する。
ただ、それを思っているのは私だけ。知っているのは私だけ。
せつなさんは私のことを恋人で、けど、子供って思ってる。
「………子供、ですよ」
鏡に写った自分を見て一言、
そして、
「……でも………貴女の恋人です」
何度もつぶやいたその言葉を、これまでで一番の覚悟をもってつぶやいた。