(………………)
緊張している。
ドッドッドと、心臓が信じられないくらい早鐘を打っている。
体が自分のものじゃないみたいに重い。
「そ、それで、渚。話って何?」
今、私たちは二人でベッドの上にいる。お風呂から出た後話があるってせつなさんをベッドに誘って、座ったまま向き合っている。
「……………」
ただ、私はほとんど何も言えずにせつなさんのことを見つめては視線を散らすだけ。
覚悟は決めたけど、やっぱり恥ずかしすぎてせつなさんを目の前にしたらうまく言葉が出てこない。
(ど、どうやって、言えばいいの?)
そもそもこんなこと……簡単に言えばエッチなことをしたいだなんてつたえるだなんて考えられない。
もしかしたら、せつなさんにいやらしい子だって思われちゃう、かも……?
「っ……」
ただでさえ真っ赤になっているのに余計に恥ずかしくなれる理由を見つけてさらに心と体を火照らせる。
「渚……? 顔、赤いけどどうしたの?」
「っ……な、なんでもありません」
「そう……」
加えてせつなさんの態度もどこかよそよそしい。多分私がまだ怒っていると思っていて私との距離間に戸惑っているみたい。
こんな状態で話をしていいの? 陽菜に読まされた漫画や、小説じゃもっと……
(………違う、わね)
それを思いだして私は軽く首を振った。
本でこうだったからっていうのは私らしくない。お話しの中ではどうであれ、周りが変だと思ったって私は、私らしさを貫くべきだ。
それがせつなさんが好きになってくれた私の姿のはずなんだから。
「……せつなさん」
私はせつなさんの手を取って
「っ!? な、渚!?」
パジャマの上から胸に当てた。
「っ。ど、どうしたの?」
せつなさんは咄嗟に手を引こうとしたけど私はぐっと力を込めて胸から離さない。
「……私、今すごくドキドキしています」
「う……うん、それは……わかる、わ」
「せつなさんに触られているから、です」
「触られているっていうか、渚が……」
「せつなさんは、私の胸に触ってドキドキ、しますか?」
「え……と」
不安に潤む瞳で見つめる私にせつなさんはまだ何が起きているのか理解し切れてはいないような顔でうんと頷く。
「………………私、せつなさんのこと、好きです」
「え……えぇ……?」
「本当に、大好きです。初めて好きになった人で、これから先他の人を好きになるなんて絶対に考えられないくらい、貴女のことが好きです」
「そ、それは、もちろん私だって、そう、だけど……」
今度はいきなりの告白に首をかしげるせつなさん。それがまた私が大人に見られていないっていうのをわからせてくれる。
「…………私は、貴女が好きです」
だから、私は前に進む。
「……う、うん?」
「だから……特別、が欲しいです」
それが精いっぱいの言い方。
「とく、べつ?」
「……他の人には絶対にしないこと、手をつなぐのでもなくて、キスでもなくて……本当に……恋人じゃないとできない……本当に、特別な、こと」
とぎれとぎれに気持ちを吐露しながら私の声は縮んでいく。
(……は、早く気づいてくださいよ)
これ以上のことなんて言え……
「渚……」
「っ!!」
せつなさんの手が背中と頭に回って顔を胸に押し当てられた。
柔らかくて暖かな感触と、優しい匂い。
それと
「……今、すごくドキドキしてるわ」
せつなさんの心臓の音。
「はい……わかります」
ドクン、ドクンって私と同じようにはやる鼓動が耳に響く。不規則ででも、どこか心地いいせつなさんの音。
「……本当は私が勇気を出さないといけないことだったのにね」
「……私が子供だっただけですよ」
「まぁ、それは確かにね。気づいてもらえないんだって思ったことは何度かあったし」
「えっ!?」
そのセリフに別の意味で恥ずかしくなる。全然心あたりがないから。
「あ、あの……す、すみません………」
思わずそっちの恥ずかしさが優先になってせつなさんを潤んだ瞳で見上げる。
「……ふふ、でもそういう渚が私は好きよ」
「っ……」
さっきまでの決意が吹き飛んだわけじゃないけれどそれ以上に、やっぱり子供だっていうことを思い知らされて、言葉が出せずに唇をわななかせる。
「可愛い」
そして、せつなさんのその態度があまりに私をバカにしているような気がして
「!!??」
私はその唇を塞ぐ。
「っ……はぁ。……子供じゃありません」
そして、その言葉と共に私はせつなさんの体をベッドへ倒していった。