話が終わると、ときなさんとはお菓子とお茶がなくなるまでの間せつなさんの話に華を咲かせ、しばらくの間はそうして私の知らないせつなさんのことを、ときなさんの知らないせつなさんのことを互いに伝え合った。

 そして夕暮れも迫ると、寮近くのバス停まで送っていく。

「あの、大丈夫ですかこんな時間になってしまって」

 開けたバスを待つ間私は気になっていたことを問いかける。

 確かときなさんの実家も、大学もここからはかなり遠いはずだ。夕暮れの中出発なんてすれば着くのはかなり遅くなってしまう。

「ん。あぁいいのよ、帰る場所はここからそんなに遠くないから」

「?」

「ついでに絵梨子に会ってあげないとね」

(なるほど)

 そういえば、この人は私に会いに来たわけじゃなった。恋人にあるついでに……って

「そっちがついでなんですか?」

 恋人と妹の恋人。どっちを優先するかは考えるもないと思うけれど。

 私がどうせお世辞だろうと思っているとときなさんはふふっといたずらっぽく笑い、

「妹になるかもしれない相手のことを大切にしたいって思うのは当然でしょう」

 と一瞬意味を理解しかねることをいい

「………えぇ!!?」

 遅れて大げさな反応を示す。

「あら? そういうつもりはないの?」

「え、いえ……その……えと……も、もちろんせつなさんのことは大好きで…その……そういう風に考えないでもない、ですが」

 大人になることにはそういう環境が整っているかどうかはともかく、精神的にはそうなることを望んではいるけれど。

(で、でもさすがに……)

 具体的な想像はできなくて、なんとなくそれを意識しては顔が火照ってしまう。

「渚って可愛いわね」

「っ!」

 突然呼称が変わり、心臓を高鳴らせてしまう私。

「まぁ、どうするかは貴方たちが決めることだけれど、少なくても私は貴女がせつなと一緒に歩いてくれるのを期待しているわ」

「っ。はい」

 優しく包み込むような笑顔でときなさんは私の背中を押してくれた気がする。私たちを認めてくれる人がいる。そのことは素直に嬉しくて、せつなさんのだけのことじゃなくてこの人の気持ちにも応えたくて私は力強く頷いた。

 

 

 ときなさんと別れて、寮に戻って陽菜とご飯を食べて、ケータイを手にしてロビーにいる。

 ここはせつなさんとよく話をしたソファで私は時計を見比べながら時間を過ぎるのを待っていた。

 すでにメールで八時に連絡をすると決めている。あと、五分。

 一応まだ仲直りをした状態ではないから緊張はしているけれど、でも迷いはない。私は改めて私の気持ちを伝えるだけ。

(……それだけじゃないけれど)

 仲直りは目的であって目的ではない。ううん、むしろそれこそが。

「………もうかけちゃうかな」

 第二の目的について考えていると待ちきれなくなってきた。少しでも早く話がしたい。

 約束の時間まではまだ数分あるけれど私はケータイを取るとそのまませつなさんへと電話をかける。

「渚。ちょっと早いわね」

 ツーコールと待たずにせつなさんの声が聞こえてきた。

「…はい、早く話がしたかったので」

「そう」

 せつなさんの声には元気がない。多分ときなさんがここに来たことは知らないんだろう。

「ときなさんと話、しました」

「っ!? そっちに、行ったの?」

 さすがにおどろているのがわかる。当然せつなさんもまさか私に会いにくるなんて思っていないんだろうから。

「はい、色々話を聞きました。せつなさんが落ち込んでることとか……せつなさんが天原に来た理由、とか」

 あえて私はそれを伝えた。隠すようなことではないしそのほうが私の意図を伝えやすい。

「……そう」

「それを聞いても、私が悪いって思うわけじゃないですけど。でも、せつなさんの気持ちを勝手に決めつけていました。ごめんなさい」

「それは謝ることじゃないわ。私こそ、渚に私の考えを押し付けようとしてたんだから」

 仲直りはこんな風になるだろうなと予想はしていた。ときなさんのことをなしにしてもお互いに非を認め、相手の気持ちに配慮を見せる。理想的と言えば理想的な仲直りの形。

 しばらくはそんな風にありきたりな仲直りの会話をしていった。

 私は改めて大学を決めた理由を伝え、せつなさんは私の気持ちに理解を示してくれた。

 それはいい。ここまでは予定調和な会話。

 後はこのまま、頑張りますと言えば終わりになる。大学のことについてはそれでいい。でも、私はもう一つの目的がある。

 というよりもこれが私の言いたいこと。ときなさんと話したことで思った私のしたいこと。

「あの、それでですね」

 受験の話が終わりを迎えたところで私はそれを続けた。

 決意を固まるかのように携帯を持つ手に力を込め、深呼吸するかのように深く息を吸ってから

「もし、ちゃんと合格ができたら……」

「できたら?」

「一緒に、住みたいです」

 万感の思いを込めて私は今までの話とは逆行するようなことを伝えた。

「………………」

 せつなさんは無言。怒っているというわけではないのだろうけど今の今で話すことではないのは私も理解している。

 けれど

「大学のこととは別にやっぱり私はせつなさんと一緒にいたいです。朝起きておはようって言って、行ってきますって言って、おかえりって言えて、お休みって言える。そんな時間をせつなさんと一緒に過ごしたいです」

 これが私の気持ち。仮に大学が別になろうとも私はせつなさんと一緒にいたい。好きな人とと少しでも多くの時間を共有したい。

 私にとってはそれは将来を見据えることの一つだ。

「……………わかった」

 その声にせつなさんの呆れたようなでも、どこか嬉しそうな笑みを私は想像していた。

「でも、その前にちゃんと勉強して大学受かりなさいよ。さすがに浪人生を住ませるわけにはいかないからね」

「はいっ!」

 喧嘩をしても仲直りをして、再び絆を深める。それはなんて素敵なことだろうと思いながら私は、希望ある未来に大きく頷いていた。  

 

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