パーティーの時間が終わると寮の中にはなんとも言えない雰囲気が訪れる。
会場こそ本格的な片づけは明日だけれど、寮の中には基本的には静寂が訪れている。
それでも妙な熱を感じる。お祭りのあとというのはこういうものだろうかと感じさせる雰囲気。
まだ火がくすぶっていて、お風呂での会話や部屋に戻ってからもふわふわと浮ついた感じがあった。
それは人によって程度が変わるのだろうけど、私も例外ではなくパーティーの雰囲気と屋上でのことに心がまだはしゃいでいるのがわかる。
部屋に戻ってからも陽菜との会話は途切れず、三年間のクリスマスの思い出やそこから派生して少しセンチメンタルに昔の話に華を咲かせていた。
「にしてもさー」
今は陽菜のベッドの上に二人であがり、陽菜は何気なく枕を抱きしめながら嬉しそうに言う。
「何?」
人のベッドに上がるなんてことほとんどしないけど、こういうことをするのもやはりはしゃいでいる証拠かもしれない。
「なぎちゃんとこんな仲になるなんて思わなかったなーって」
「え……?」
平然と陽菜は言ったけれど私には意外な言葉だった。
「あれ? どしたのなぎちゃん?」
「いや、……そんなこと言われるとは思わなかったんだけど?」
「え? そう? 何回か言ってないっけ?」
「い、言ってないわよ」
正直、ショックだ。だって、陽菜はずっと私と一緒にいてくれたから。それこそ初めてここに来た時から。
「そうだったっけ? んー、そうだったかもねぇ」
「仲良く慣れるって思わなかった、の?」
「んー、そうだねー。なぎちゃんって最初怖かったよ?」
「え?」
「意外そうにされるとこっちこそ、え? って感じだけどでも、そうでしょ。なぎちゃんって出会ったころはいつも怒ってるのかなってくらいだったし」
「う………」
それは私にとっては思い出したくない記憶だ。
「それは……その忘れてよ」
それは何にも期待をしていなかった頃。この学校のすべてをくだらないと切り捨てていた頃の、せつな先輩のことすら意識していなかった頃。
他者と関わろうとせず、一人でつまらない顔をしていた。
「それは無理かなぁ。内心、この子と本当にうまくやって行けるのかなぁって不安だったし」
「そ、そうなの?」
「だって、私が仲良くなろうって思って話しかけたりしても【別に】とか、【興味ないから】とか、【月野さん一人でいいでしょ】とかばっかりだったし」
「……っ……忘れてっていってるでしょ」
思い出したくないということもありその頃のことは詳細には覚えていないけれど、多分そんな感じではあったのだとは思う。
「そのなぎちゃんが今や朝比奈先輩と一緒の大学に行きたいって頑張っちゃうような子になるなんてねぇ。私は感慨深いよ」
「……………うるさい」
私はいじけたように陽菜から目をそらした。
陽菜には頭が上がらない。ある意味せつなさん以上に色んな私を知っているから。
「けど、よかったよね。なぎちゃん」
「…………………」
屈託なく笑う陽菜に、私はパーティーと旅行の約束に浮ついている自分を改めて発見して
「……あんたのおかげよ。陽菜」
照れを隠すことなく陽菜の手に触れながら伝えた。
「え?」
「全部陽菜に会えたから今の私があるの。陽菜と出会えたから私はここでの生活を受け入れられたの。陽菜と出会わなかったら、ううんこうして陽菜と一緒の部屋に慣れなかったらせつなさんを好きになることだってなかった」
「なぎちゃん……」
(ほんと、浮ついてる)
恥ずかしいことを言っていることを自覚しながら私はまんざらでもない気分になっている。
経験はないけれど酔って昂揚するというのはこういう気分だろうか。
「だから、ほんとに感謝してるわ。ありがとう陽菜」
(恥ずかしいけれど……)
そう、悪くはない気分。
「……大好きよ」
「っ……なぎちゃん」
三年間の想いを詰め込んだ言葉を受けとめて陽菜は、瞳を潤ませた。
それがどんな感情からきているのかが分かって、私もつい頬が緩む。
「えへへ、なーぎちゃん!」
「っ!? わっ、ちょ……陽菜!?」
いきなり陽菜が抱き着いてきて子供のように暖かなぬくもりに包まれるとさすがに動揺する。
「私も、なぎちゃんが好きだよ」
抱き着かれたまま耳元で囁かれる言葉がこそばゆくて、笑みを作りながら私は陽菜を抱き返した。
「……知ってる」
「うん」
そこで会話を途切れさせ互いに相手を抱きしめたままの時間が過ぎる。
(ほんとに大好きよ)
かけがえのない私の親友。
「ねぇ、なぎちゃん」
「ん?」
「今日一緒に寝よっか」
「……うん」
他の誰とも比べることのできない大切な相手のことを抱きしめながら私は感謝しきれない想いを伝えた。