あれからせつなさんにきちんと看病をしてもらって、お昼をとって午後はゆっくりと寝入った。

 せつなさんはずっと私の傍についてくれていて、私はもうそれを申し訳なくは思わなかった。

 夕方にはときなさんと桜坂先生が戻ってきて、口々に私を心配するのと同時にどんなことをしてきたか、見てきたかを詳細に教えてくれた。

 その遠慮のなさが逆に心地よくて、私はいいお姉さんたちを持ったなと喜び、そのおかげというわけではないけれど夕食は皆と同じように旅館の食事を取ることが出来た。

 お風呂は今日はやめておきなさいとせつなさんに言われたこともあって早めに床についたのだけれど

(……さすがに眠くないわね)

 日付の回るころ。私は暗くなった部屋の中で天井を見つめていた。

 寝ようとしたのは十時ごろだからすでに二時間は過ぎている。けれど、ベッドの上で瞳を閉じても眠気は一向にやってこなかった。

 それもそのはずなんせ今日は一日中寝ていたのだから。さんざん寝ていたのにこの時間に寝ろと言われてもなかなかに難しい。

「……お風呂、行ってこようかしら」

 今日は汗をたくさんかいた。拭いてはもらったけれど、それでも気分としてお風呂には入っておきたい。

(確か、ときなさんと桜坂先生はさっきお風呂行くって言ってたわよね?)

 せつなさんはもう私の隣で寝息を立てているけれど、大人の二人はまだ起きていて部屋で話していると悪いからとお風呂に行くと言っていた気がする。

 仮にも今日一日体調が悪かったのに一人でお風呂なんかに行ったら怒られてしまいそうだけれど、二人がいてくれるのなら大丈夫よね?

 そう決めると念のためせつなさんの枕元にお風呂に行ってきますメモを残し私は着替えをまとめて部屋を出て行った。

 

 

「……ときなさんたちしかいない?」

 脱衣所で使用されている衣類かごを見ながらそうつぶやく。使われているのは二つ分、それ以外はすべて空いているということは浴場の中には二人しかいないってことだろう。

(まぁ、もう遅い時間だしね)

 そう思いながら私は手早く衣類を脱ぎ捨て、平坦な体を空気にさらして浴場へと入っていった。

「ん……?」

 入った場所からでは二人の姿は確認できなかった。

 入口から死角になっているところもあるし、サウナもあるからここからは見えないところにいるんだろうと、私は先に体を洗うことにした。

 いつもは丁寧に頭から洗っていくけれど、今は調子悪いこともあってさっと体を洗い終えると私は手近な湯船につかってからあたりを見回す。

(探さないといけない、ということはないけれど)

 二人がいるから来たというのはあるけれど、それは何かあったときのためでしかないし体を温めてすぐに出ていくつもり。

 だから別に二人のことを探さなくてもいいのだけれど、せっかく来たのだし挨拶くらいはするべきかもしれない。

 とりあえず、私は湯船を移動して壁に遮られている部分まで見ようとして

「ちゅ……ぢちゅ……ん」

 何か、お風呂では聞かないような水音を聞いた気がした。

 ただその時はまだ何の音かわからず首をかしげる程度だった。でも、さらに湯船を移動していくと

「っ!?」

 思わず、目を見開いてしまった。

 そこは浴場の隅っこで、入口からはもちろん浴場の中にいてもあまり目立たない場所。

 そこで二人は湯船の端にある腰かけに座りながら

「ん、ぴちゅ……くちゅ」

 キスを、していた。

 それも、私がしたことのないようなキス。

 ちょうど私からは二人が並んでいるのが見えて、裸の二人が体を寄せ合いながらキスをしているのが丸見えで……肌色の中に二人のベロはとても……印象的で……いや、らしくて……私はただその場から二人を見つめてしまった。

「っ、はぁ。もう、こんなところでしなくてもいいでしょ」

「こんなところじゃないとできないじゃない」

 キスを終えても二人は体をほとんど離さずに会話するには近い距離で話をするときなさんと桜坂先生。

「部屋じゃせつな達が寝てるのよ? まさか、妹たちの前でしろっていうの?」

「昨日だってしたじゃない……」

(え!?)

 き、昨日私は早めに寝てしまったけれど、え? していたの?

「ふふ、そうね。でも、今は渚が寝ているのだし万が一にもおこしちゃったら悪いでしょ」

「渚のことを思うのならしなくてもいいと思うけど」

「もう結構回復してたじゃない。あの子たちも二人きりでいろいろいい目見たんだろうし、わたし達が少しこうするくらいしてもいいじゃない」

(私のこと、気にする必要はないです、けど……)

 とは口が裂けても言える状況ではない。私のことを気にして二人がしたいことを制限するのは考えなくていいけれど、そんなことよりも

(こ、このまま見てていいの?)

 そのことが気になって私は動けずにいる。二人のキスを見たことはあるけれど、それは学校で……その……なんていうか、服を着ていた状態で今は……何も身に着けていなくて、裸……で、胸、も見えちゃってて……くびれも、なんだかすごくエッチな感じがする。

 寮で裸なんて見慣れているはずなのに、今の二人を見るのはとても恥ずかしくてドキドキする。まるで初めて見るかのように。

(……初めて、見るのかも)

 こんな光景は……初めてだから。

「ね、絵梨子。もっと」

 と、ときなさんは桜坂先生の首に腕を回すと誘うように微笑んだ。素敵な笑顔なのに、どこか妖艶で私はもちろんせつなさんにすら感じたことのないような色気を滲ませている。

「もう、ときなってば」

 桜坂先生も満更ではなさそうに答えるとときなさんの腰に手を回す。

 そして、キスをする前から舌を出して

 ときなさんもそれに応えるように同じようにすると

(ふ、ぁ……)

 再び舌を絡めた。

「ちゅ……ん、くちゅ、ちゅぷ」

 お互いの口元によだれが溢れるほどの深く激しい口づけ。肌色の中、二枚の舌が溶け合い二人が一つに溶け合っているように感じた。

「絵梨子……」

「ときな……」

 うっとりと名前を呼び合って情愛のこもった瞳で見つめ合う。

 言葉にしなくても通じているかのように二人は再び

「んっ……」

 キスを交わした。

 それだけでなく

(う、わあ…わわあ…わ)

 む、胸……胸に………胸、を……

 触り、あってる。

 二人の細い指が豊満な胸にくにゅっと沈み込んでいる。揉むように、包み込むように、愛し合うように。

「ん……っく」

 私は呼吸すら忘れていて、ようやく息を吸うとごくっと生唾を飲み込む。

 二人が何をしているかくらいわかる。そのくらいの知識はある。それに……具体的な想像なんて恥ずかしくてできなかったけれど、もしかしたらいつかは程度のことは考えたことがあるもの。

「んあ、あっ、ふぅ……あ、ときなぁ………んっ」

「ふあ、ぃい……ね、もっと。……もっと、触って」

「えぇ、もちろん。愛してるわ、ときな」

 息のかかる距離で愛欲の言葉を交わしながらときなさんと桜坂先生は体を絡めていく。

 それはとても綺麗で、現実には思えないほどに蠱惑的で……なによりえ……えっち、で……

「ふあ……ん、ちゅ……ちゅぷ」

 キスの音、絡まる舌と舌。合わさる胸と、手と、太ももと……

「んっ」

 胸にあった手がするするっと下って行ってお腹を撫でて桜坂先生が身をよじる。私の目にはそれすら官能的に思えて……

(え? え? ……?)

 嘘。え? だって、ここはお風呂で……いつ誰が来るかもわからないし、そもそも私が覗いちゃってるのに。

 する、の……?

 本当に?

(これ、以上は……ダメ、よね)

 も、もちろん本当にダメなのは私よりも二人だけど……だからと言って覗いていていい理由にはならないし。

 どこか後ろ髪は惹かれる心地はあるけれど、どうにか興味よりも理性が勝ってゆっくりと私はその場を後にした。

(…………せつなさん)

 なぜかそのことを思い浮かべながら。  

 

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