旅行の最終日。
この日は午前中にはチェックアウトをして、車で近場を観光しながら帰る予定。
昨日は寝たのはかなり遅い時間だったはずだけれど、朝は意外にすっきりとは起きられたし体調も問題はない。
朝ごはんだって普段と同じように食べられた。
けれど……
「渚の様子おかしくない?」
「そうよねぇ、普段のなぎちゃんっぽくないわよね。まだ調子悪いの?」
「私もそう思って何度か聞いてみましたけど、元気だの一点張りで……確かに元気そうではありますけど、話しかけてもすぐどっか行っちゃうからよくわからないんですよね」
「そうね、なぜか顔を真っ赤にして逃げていくわよね」
「何か悩みなら聞いてあげたいけど……」
(……聞こえてますよ)
途中お昼に寄った高原。お昼は取り終えてベンチで食休みをしている私は少し離れた場所で話している三人の会話に聞き耳を立てる。
目の前には一面の草原が広がっているけれどとても集中できる気分ではない。
三人の話している通り今日の私はおかしい。
昨日のことがいまだに頭を離れず、誰と話しててもそのことを意識しちゃってまともに会話ができない。
ときなさんや桜坂先生なら絡む二人のことが思い浮かぶし、せつなさんには胸……の感触とか意外に重かったなっていう感想とか、みんなが寝静まった後にいろいろ妄想してしまったこととか、そういうのを思い出しちゃってまともに顔も体も見れない。
(そもそも昨日何を考えちゃってたのよ……)
あ、あんなえ、エッチな、こと。あんなこと考えてたのがばれたらせつなさんにいやらしい子だって思われちゃう。
「はぁ……」
今日何度目かのため息。
「ほら、またあんな顔してるし。絵梨子少し話聞いてきなさいよ」
「え? 私? いいけど、せつなちゃんの方がいいんじゃない?」
「いえ、私だと余計に避けられているような気もしますし、絵梨子さんがお願いします」
そういうことなら、と私から離れたベンチにいた桜坂先生がこちらへ向かってくる。
(……そんなことをされても困るのだけど)
「なーぎちゃん」
私が悩んでいると思っている(まぁ、悩んではいるけれど)桜坂先生はお道化たように私を呼んだ。
「隣いい?」
「私の所有地ではないのでどうぞ」
「ふふ、なぎちゃんらしい言い方」
隣に桜坂先生が来ると草の香りだけが匂っていた場所に甘い香水の匂いが混ざる。
(やっぱり、大人っぽい)
というか大人なんだけれど。
私は香水どころか化粧だってほとんどしたことないのに。
「せつなから聞いたけれど体調が悪いわけじゃないってことは何か悩み?」
「…………」
貴女たちがお風呂であんなことをしてるのを見たせいです。
って言えたらどんなに楽かしら。
実際にそれを口にしたら桜坂先生は顔を真っ赤にして動揺するのだけれど、私は一番大人だと思っているからそんなこととても言えずにただこの場をどうするべきかと考え始める。
(でも、もしこういうことを話すのなら……この人しかいないのかしら)
ごまかしても何も解決しないし、それに……興味がないわけじゃないし聞けるとしたら一番大人で経験も豊富そうな桜坂先生くらいしかいない気がする。
「な、なに?」
じぃっと真剣な瞳で私は桜坂先生を見定める。
(そう、よね)
私とせつなさんだっていつかはそういうことをするのだろうし、聞いてみることは何も悪いことじゃないわよね。
私はそんな風に自分を納得させて想いをぶつけることにした。