一緒に死んで。
そう紡ぐ希の声を私は思ったよりは冷静に聞いていた。
私が覗いてしまった希の秘密。
手帳に書かれていた私との死を望むような言葉と、そこに散りばめられた希の想い。
(やっぱり、本気、だったのね……)
そして、その現実を知り私が感じたのは圧倒的な無力感。希に本気で死を考えさせてしまったという虚脱感。
「こん、なん……おかしいってわかってる。むちゃくちゃなこと言ってるっていうのも。……でも……いっそって思っちゃうんよ。もし、えりちと離ればなれになるかもしれないなら、そんな日が来るくらい、なら……い、っそって……」
希が泣いている。
あの希が。どんな時でも相手のことを考えられるやさしい希が。心配をかけないようにとつらい気持ちも、悲しい気持ちも笑顔の裏に隠してきた希が。
「あ、はは……ほんと、おかしいわ。えりちのこと信じとるのに、ね。絶対にえりちと別れるなんてありえないって思ってるのに……でも…」
希が、泣いている。
未来に怯えて。私とのこれからを悲観して。私との将来に絶望をして。
(……私の、せいで)
こんな言い方は希の決断をかえって穢しているのかもしれないけれど、私のせい。
だって、私は希の恋人。将来を誓った仲。
これから先、二人で生きていこうと誓っていた。楽しいこともうれしいことも、悲しいことも苦しいことも、二人で一緒に分かち合っていこうってそう誓い合っていた。
のに、
「ごめん……、っく。ごめ、ん……な。こんなん、言われても…ひっくっ……えりちのこと……困らせるだけ、だよね……ごめん……ごめ、ん」
私のせいで希が泣いている。
恋人のくせに希の不安に気付けず、気付いてもどうすればいいのかわからずに何もできず。
繋いでいたはずの手はいつの間にか離れていて、希を独りで悩ませ、袋小路に追い込みここまでのことを言わせてしまった。
「えりち…ごめん……ごめん、なさい」
ぼろぼろと涙を流しながら希は私に謝罪の言葉を述べる。
自分でも言っているように異常なことをしようとしている自覚が希にはある。でも、今の希にはそれ以外が考えられなくなってしまっている。
「っひく……っ……うぐ」
泣かないで。私はそんな希を見たくないの。好きな人が苦しんでいる姿なんて見ていられないの。
(………………………………………)
私もおかしくなっている。
こんなのは短絡的で何にもならないのかもしれない。でも……希がそれを望むのなら。【愛し合っている今】を永遠にしたいと願っているのなら。
それに応えることは、恋人として何もおかしなことじゃないわよね? 好きな人の気持ちにこたえるのは、していいことよね?
これが、希を救うのなら。
私は。
「希」
私は、希の手を包み込んだ。
「えり、ち?」
(たぶん、いけないこと、なんでしょうね……)
他の誰かに相談をしたらやめろって言われるんだと思うわ。
でも、他にどうすればいいのかわからないのよ。私はこれまで精いっぱいに希を想ってきた。愛してきた。その希が、私との希望よりも絶望を選ぼうとしている。
私には何の力もないの。
希を愛してきたけど、私は希に生きる希望を与えることができなかった。
そんな私に希を止める言葉なんてない。
なら、せめて私ができるのは……
「もう、泣かないで」
精いっぱいの笑顔を作って
「……一緒に、死にましょう」
希の望みに応えることだけだった。