校内を一望できる屋上から私は眼下を見つめる。
そこには学校ならではの色んな光景が見える。
窮屈な一日から解放された生徒たちだったり、部活動に勤しむ姿だったり………並んで歩くカップルの姿だったり。
長い金髪と、特徴的に二つに分けた髪の後ろ姿。
絵里と希。
ここから見てても少しぎこちなさを感じるけど、二人は明らかに友だちと歩くのとは違う近すぎる距離間で校門へと向かっている。
(……………)
「にこちゃーん。何見てるの」
私が感傷的な気分になってるって言うのに背後から能天気な声。
「あ、えりちゃんと希ちゃんだ。大学見に行くって言ってたっけ? にこちゃんはそういうのいいの?」
穂乃果は目ざとく私と同じものを見つけて、これまたあっけらかんと言った。
「別に今日は行かないってだけよ。というか、あんたはああいうの何とも思わないんだ」
「えりちゃんと希ちゃんのこと?」
「そ。絵里のこと好きだったんじゃないの」
「大好きだよ。今も大好き」
「………だから絵里のことふったわけ?」
矛盾したことを言っている気がするけど、それが矛盾しないっていうのは私が良く知っている。
「うん。だって、えりちゃんが好きなのは希ちゃんだもん。告白オッケーしてくれるなんて思ってなかったからちょっとだけ夢見せてもらったけど……えりちゃんの一番は私じゃないから」
希から告白した時のことはある程度聞いてる。
希は私の言葉を受けて告白したけど、絵里もほとんど同じ状況だったらしい。
穂乃果に本当に絵里が好きなのは希だって言われて、希に気持ちを伝えようとしていた。
(……まったくとんでもない茶番に付き合わされた気分よ)
つまり私が余計なことをしなくてもあの二人の結果は変わらなかったってこと。
まぁ、そんなのは
「だからこれでいいの」
この生徒会長さんも思ってるのかもしれないけど。
「………そうね」
まさか穂乃果と同じことをするとはね。
それが不思議な気分で、けれど決して嫌ではなくて
「穂乃果」
「? なに?」
「今日パフェでも奢ったげるわ」
「え!? に、にこちゃんどうしたの!?」
「たまには先輩らしいことしてあげるってこと。年上の誘いは素直に受けときなさい」
「あ、う、うん。じゃあ……」
ぽかーんってしてるけど私が何でこんなこと言ってるかわからないようじゃあんたはまだまだね。
「ほら、そうと決まったらさっさと練習に戻るわよ」
「えー、まだ休憩時間終わってないよー」
「いいから行くわよ。じゃないと奢らない」
「はぁ〜い」
穂乃果はしぶしぶみんなところに戻っていく。
私もその背中を追いかけながら一度振り返って、絵里と希を見つめる。
そして
(好きな人が幸せだったらそれでいい。好きってそういうこと、か……)
希の言っていたことを思い出しながら
「……あんたの言う通りよ」
自分の言動の矛盾に小さく微笑むのだった