あの告白はしちゃいけないものだった。
希のことを好きに思っていても、あの時の私はただ希を悲しませたくないっていう気持ちで覚悟も何もなかったから。
付き合った瞬間から私たちはすれ違っていて、その差は時間が経つにつれ、希の恋人としての時間を過ごすにつれ、大きくなっていった。
でも、もう後戻りはできなくなっていた。
その中で私は精いっぱい恋人であろうとしたけど、そこには当然無理が生じて……希にもそれを見抜かれた。
「……うちら、終わりにせぇへん?」
それは唐突な言葉だった。
この日も希と一緒の帰り道。
やっぱりうまく話せない時間を過ごしながら、希との別れ道で希はそう言った。
「え…………?」
その想像もしていなかった一言に私は一瞬で現実感を失って、声すらまともに出せなかった。
「……ごめんな。えりち。えりちはうちのために頑張ってくれてるのにね」
希は本当に申し訳なさそうに言った。
「……あの時えりちが本気じゃないなんてわかってたんよ」
(っ……)
それはもちろん告白の時のこと。
「そんな、こと……」
ないってはっきりとは言えない。だってそんなことは自分が一番わかっているんだから。
「えぇって気を使わなくても」
希が笑ってる。
希が都合の悪い時にする笑い方。貼り付けたかのように同じ笑顔。自分の心を隠して、本当の気持ちをごまかすための笑顔。
(それは、わかるのに)
「………っ」
(どうして、何も言えないの?)
「きっかけが冗談でも……えりちが無理をして恋人になってくれたんだとしても、うちは嬉しかった。ずっと、夢見てたことだから。……一か月もなかったけど、幸せだったよ」
じゃあ、どうして別れようなんて言うの?
それを言葉にしなきゃいけないのに。
(……なんで、何も言えないの?)
希にこんなこと言わせたくないはずなのに。
「けど、もうおしまいにしよか。これ以上うちがえりちのこと独り占めするのは悪いし、えりちも大変やろ? うちの【恋人役】なんて」
「っ!!」
自分では自覚していた。私は希の恋人を演じていたにすぎないって、けど……それを希に言われるのは自分で思うのとは大違い。
触れられたくなかった心の脆い部分を突き刺すような痛みが走る。
「ち、違うわ!」
その胸の痛みがその言葉を吐き出させる。
確かに私は本当の恋人ではなかったかもしれない。けど、希はまるで私が希を好きじゃないみたいに言う。
それは! それだけは違う。
私は、希が好き。
希がいたからこの三年間やってこれた。生徒会長としての私も、μ'sとしての私も希がいてくれたからこそ。
「私は、本当に希のことを…す」
きと続ける前に
「…………じゃあ、キス、できる?」
希の笑顔の裏から、最後に残った希望が飛び出してきた。
「え………」
私はそれに一瞬の驚きをもってしまって、希にはそのわずかな隙だけで十分だった。
「…………そういうことやろ?」
希は今にも泣きだしそうな笑顔をする。泣き出しそうなくせに笑顔をする。
「のぞ……み」
恋人として、親友として、希を想う一人として何かを言わなきゃいけないはずなのに。
キスを躊躇してしまった私には、なんの権利もないような気がして………
「………今まで、ありがとうな」
震える声でそう告げる希が去っていくのを見つめるしかできなかった。