……玲菜ちゃんが小学校二年生の夏休みだったな。

 初めて会ったのは、偶然だったんだ。もうなんでかって言うのは忘れたけど、私は迷子になってたの。どうすればいいのわからなくて、街をさまよいながら泣いて……そこに玲菜ちゃんがどうしたの? って声をかけてくれたんだ。

 本当にかっこよかったよ。

 優しく頭を撫でてくれて、とりあえずウチに来ようって家に連れてきてくれて……お菓子とジュースを入れてくれた。

 あれは本当においしかったし、嬉しかった。

 泣き止んだ私から連絡用のメモを受け取って、家に連絡してくれて、その日はそれでお別れしたの。

 ……でもね、その時には玲菜ちゃんはもう一人だったんだ。

 後から聞いたんだけど、その頃にはもう家に玲菜ちゃん以外の人は誰もいなくて……玲菜ちゃんは、探してたんだって。どこかにご両親がいるかもしれないって、だから私を見つけて……迷子の私に優しくしてくれたんだよ。

 次に玲菜ちゃんに会ったのはね、二週間後。玲菜ちゃんのお家にお礼をしに言った時。

 ……その時の玲菜ちゃんは忘れられない。

 玲菜ちゃんはすごいやつれてた。頬もこけて、まともに立てないくらいで。これも後から知ったんだけど、その時はもうほとんど何も食べてなかったんだって。いなくなってからしばらくは家に残ってたお金や食べ物でどうにかしてたらしいけど、そんなものすぐになくなって、何にも食べないままいつかパパとママが帰ってくるって思ってずっと待ってたんだって。

 ……はじめて会った時にくれたお菓子もジュースも……玲菜ちゃんが無理に私にくれたものだったんだ。

 すぐに病院に連れて行って、入院することになって、そこで両親が帰って来てないっていう事情を聴いたの。

 その時の私は本当に子供で何も深くなんて考えないで、「じゃあ、パパとママが帰ってくるまで私の家にくればいいよ」なんて言った。

 一緒に話を聞いたお母さんは、玲菜ちゃんの事情に気づいていいよって言ってくれた。普通ならそんなに簡単に行く話じゃないんだろうけど、幸いっていうかうちにはその余裕があったから。

 私は、本当に子どもだったからお姉ちゃんができたみたいだって無邪気に喜んじゃった。

 玲菜ちゃんがどんな気持ちかもわからないでさ。

 夏休みが終わる前には玲菜ちゃんは退院して、一緒にいるのがすごく楽しかった。玲菜ちゃんはその時から綺麗でかっこよくて、勉強教えてもらったりなんかして、本当に、本当に嬉しかった。

 でも、嬉しかったのは私だけだったんだよ。

 玲菜ちゃんが思ってたのは、お家に帰ることだったんだよ。パパとママが迎えてくれるお家に帰ることだった。

 私はそれに気づかないで、「ずっと一緒にいられたらいいのに」なんて、残酷なこと言って、

 その次の日、玲菜ちゃんが家出したんだ。

 皆で探したけど、中々見つからなくて………見つけた場所は、玲菜ちゃんのお家。

 ……忘れられないよ。

 夕暮れの中、明かりのついてない家を玲菜ちゃんは見上げてて、私が………帰ろうっていうと、玲菜ちゃんは怒って

「私が帰る場所はここなの!」

 って叫んだ。

 私はそこで初めて、私だけが玲菜ちゃんっていうお姉ちゃんができたことを喜んでることに気づいて同時に

「…………………捨てられたんだ、私」

 そうつぶやく玲菜ちゃんを見て、私もやっとそのことに気づいたんだ。

 それからしばらく玲菜ちゃんはほとんど部屋から出てきてくれなくなった。話しに行っても出ていけとは言われないけど、ほとんど何も話してくれなくて……私は玲菜ちゃんを傷つけたのはわかってもどうすればいいのかはわからなくて、色んなことをして元気になってもらおうとした。

 テレビを一緒に見たり、漫画を読んでもらったり、遊園地とか、動物園とかに連れ出したり、音楽や児童演劇を見に行ったり、ね。

 玲菜ちゃんはしばらくすると少しずつ部屋から出てくれるようになった、学校は家に帰って誰もいないかもしれないっていうことが怖いって通えなかったけど、少しずつ笑い合えるようにもなって元気になったって思ってたけど………

 違ったんだよね。

 玲菜ちゃんはずっと苦しんでた。捨てられたっていうことに傷ついたまま、私の家にいるっていうことに負い目を感じて……私の想像だけどね、だから玲菜ちゃんはああなっちゃったんだって思う。

 ……大好きだったんだって、ご両親のこと。愛されてるって思ってたんだって。でも…………捨てられちゃった。だから、玲菜ちゃんは信じてくれないんだと思う。大好きだった両親に……捨てられちゃったから。私も好きも、姫乃ちゃんの好きも、玲菜ちゃんは……信じるのが怖いんだって思う。

 リストカットの理由は……わかんないや。捨てられたっていうのが関係してるとは思うけど、でも……わからない。何度も、聞いたけどね……話してくれなかった。

 ……あはは、ごめん。何の役にも立てない、かもね……。

 話してて思ったけどさ……私、結局玲菜ちゃんのこと肝心なことは知らないんだよね。守りたいって思ってたのに……何にもできてないんだよね。

 ……私、何をしてたのかな?

 ……どうすればよかったのかな?

 どうやったら、玲菜ちゃんのことを……助けられるんだろう………

 っ、はは、ごめん、泣いたって何にもならないのにね……でも……私、わかんないだもん。

 ……姫乃ちゃんは、どうしたらいいって思う?

 

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