少女が二人、並んで座席へと座っている。

 ガタンゴトンと揺れる電車内で互いに体重を預けあい、玲菜は窓の外を、結月は外を眺める玲菜を見つめる。

「………意外と覚えているものだな。電車で来たことはほとんどなかったと思うが」

 目的の駅が近づくと玲菜は結月に語りかけるようにも、一人ごとにも思えるような口調で感想を口にした。

「そう、なんだ」

「……あぁ。やはり特別な何か、というものはあるのかもしれないな。刷り込み、とは違うだろうが、子供の頃の記憶というのもは残りやすいものらしいな」

「そっか」

 玲菜の表情にも言葉の中にも悲哀や切なさのようなものは見当たらず、感想でしかないのかもしれないが、それでも結月は玲菜の手をぎゅっとに握り締めた。

「…………」

 その行動を玲菜は若干驚きつつも、微笑を浮かべ結月の頭を撫で返す。

 心配ないと言葉にする代わりに。

「お前がいてくれれば大丈夫だよ」

「……うん。ずっといるからね」

「あぁ」

 これから向かう先は決して玲菜にとって愉快なところではない。というよりも、玲菜にとっては心の傷そのものと言ってもいい場所だ。

 不安や恐怖がないと言えば嘘になるし、今は平気でもその場所では平静を保っていられるかはわからない。

 それでも、玲菜にはいく目的はある。それはその場所でなければいけないということはないかもしれないが、玲菜の我がままとしてその場所がよいと考えている。

 そこでこそ結月に伝えようとしていることが意味を持つから。

(……この気持ちを伝えられる時が来るとはな)

 自分の願いを思い返し玲菜は、それを思えることの幸福に笑みをこぼす。

 それは恐らく自分が何よりも望んでいたことで、どうせ自分なんかとあきらめていたことでもある。

 望みがあって、それを伝えられる相手がいる。玲菜にとってこれ以上の喜びはない。

「さて……いくぞ」

 電車が止まると玲菜は結月の手を取り、立ち上がる。

 そして、自分の生家のある駅へと誰よりも一緒にいて欲しい相手と降り立った。

 

12−5/12−7

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