「なぁ、神守。君は確か妹がいると言っていたな」
校舎を出てから部室までの並木道を玲菜は洋子と歩きながら、昨日香里奈から感じた疑問に関して口を開く。
「え、う、うん。いる、よ」
もうさすがに玲菜と話しているからと言って慌てたりはしないが、不意に想定外のことを言われ洋子はあたふたと答えた。
「いくつくらいだ?」
「今年、中学生になったけど」
「ふむ。そうか」
「………?」
何故いきなり妹の話をされるのかまるでわからない洋子は歩きながらも玲菜の横顔を見つめる。
玲菜は何かを悩んでいるように見え、あまり見ない姿だなと思うが玲菜が何を思っているのかまでは想像しようもなかった。
「変なことを聞くかもしれないが、今でも君は妹と入浴したりするのか?」
「え!? お、お風呂?」
玲菜が何を考えているかわからないまま、さらに意味不明且つ衝撃的なこと言われ洋子は調子の外れた声をあげてしまった。
「あぁ。もしくは一緒に寝たりなどはあるのだろうか」
だが、玲菜はそんな反応をされようが変わることなく自らの疑問を口にする。
「えぇと……さ、さすがにもうしない、けど」
「ふむ。まぁ、そうだろうな」
わけがわからないまま普通の答えをする洋子に玲菜は納得したようにうなづいた。
常識の薄い玲菜であっても、この年になり姉妹で一緒に入浴をし、眠るということは特異なことであることは想像できる。
(香里奈は特別、ということか)
確かに香里奈は変わっている。
容姿はいざ知らず、中身は小学生といってもいいようなことが多々ある。だが、香里奈が子供だからと言って姉の方が受け入れるというのも珍しい例だろう。
「………ふむ」
玲菜は歩きながら思わず腕組みをする。
昨日はあれ以上、そのことに関し玲菜は聞かなかった。というよりは聞けなかった。
両親がいないということに関しては軽々しく聞けるようなことではない。もちろん、いないとは言っても、単純に朝おこしたり、弁当を作ったりすることができないという意味かも知れず大した意味は持たないことも可能性としてはある。
だが、そうではないとしたら。
もし、簡単に聞けないようなことが事実だとしたら。
「久遠寺さん?」
いつのまにか足の止めていた玲菜を洋子は正面に回って顔を覗き込む。
「あぁ、すまない。考え事をしていたのでな」
言って玲菜はすぐに歩き出し、また二人で歩いていく。
「結月ちゃんと、お風呂入ったり、するの?」
玲菜が質問してきた意味を取り違えた洋子は、ついその光景を想像しながら頬を赤らめながら問いかけた。
「ん? いや、そんなことはないが」
「そ、そうなんだ」
玲菜がいまだに結月とそういうことをしているのかと思って質問をした洋子だったが、玲菜はあっさりと否定をする。
「まぁ、たまに一緒に寝はするがな」
「え!?」
だが、そのすぐ後予想だにしないことを言われ思わず玲菜の顔を見る。
「私から誘うことはないが、結月が求めてくれば私にそれを断る理由はないからな」
「も、求め……」
おかしな意味なはずがないということは理解しているものの、玲菜の言い方がそういう風にも聞こえ洋子はさらに顔を熱くした。
「ん? 顔が赤いぞ神守。熱でもあるのか?」
「あ、だ、大丈夫。えと、……あと、ほ、本当に二人って仲いい、のね」
玲菜に顔をのぞかれさらに動揺した洋子はそれをごまかすためにこの場ではおかしくないはずのことを口にする。
「………ふむ。まぁ、悪くはないだろうな。だが、おそらく仲がいいという言葉はあてはまらないよ」
「え………?」
「私と結月ではとても、な」
「……久遠寺、さん?」
せつな気な横顔を見せる玲菜に洋子は口を閉ざす。
それは結月と玲菜以外の誰もが立ち止る場所。気にはしつつも、たやすく踏みこむことはできずにいる。
「さて、今日もよろしく頼むぞ」
もちろん洋子も二人のことを気にしつつも、部室についてしまったことにより二人きりの時間は終わりをつげ今日も踏み込むことはできずに疑問と興味だけが増えていった。