玲菜は机の前のイスに座って外を眺めていた。

 外は雨だ。

 しとしとと熱くなりかけたこの季節に涼やかな音を立てる。

「………遠い、な」

 玲菜はぽつりとそれをつぶやく。

 昼間のことを思い出すと、気が沈む。

 洋子と話したことが嫌だったのではない。洋子と話したこと自体は玲菜にとって有益だった。自然と洋子と呼ぶことができた。

 自分でも友人だとはっきりと思えた。

 そして、尊敬をした。

 尊敬できる友人を見つけることができた。それは玲菜の人生において初めての経験。喜ぶべきことではあるし、結月も同じように思ってくれるだろう。

(だが、遠い)

 尊敬をすると同時に玲菜はそれをはっきりと感じた。

 洋子は自分の夢を自分なんてと言い、なれるかわからないと言った。

 それは確かにそうかもしれない。夢を持ち、目標に向かってひたむきに努力をしようともその夢を実現するのは簡単ではない。というよりも、現実と妥協し現実に膝を屈することの方が多いのかもしれない。

 しかし、そうだとしても玲菜にとってはその目標を持っているというだけでも尊敬に値した。

 なぜなら

(私には何も、ないからな)

 玲菜は自分が何もできない人間だと思っている。そして、向かうべき目標もなく将来をどうするかということも考えられない。

 そんなどうしようもない人間だと思っている。

 唯一あるのは、結月の力になりたいということだ。

 今日も、明日も、一年後も、十年後も、この命が尽きるまで結月のために生きたいとは思っている。

 だが、それではだめなのだ。

 それは自分のためではない。はっきりと伝えたわけではないし、言われたわけでもないがおそらく結月はそんな玲菜を喜ばない。受け入れてくれたとしても、だ。

「私のやりたいこと、か………」

 いつかそんなことを言われたことがある、自分の好きなことをしろと。それを見つけなれば結月はきっと喜んではくれない。

 だが、そんなものは想像もできなかった。自分などでは何を言っても現実的でないように思えず何にも向かえない。

 そして、いつまでも立ち止る。

 玲菜は決して謙遜でなく自分をそう信じ、愚かしいと思う。

 だから、将来を見ている洋子を心から尊敬しその分心が沈む。その友人との距離に。

 自分が何もない人間だと思い知らされるから。

「………ふ」

 自分を嘲るように笑う。

「嫌な落ち込み方をしているな」

 そうつぶやいたのを最後に玲菜は黙り込む。

 外の雨は徐々に強くなっていった。

6/五話

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