玲菜は一人でどこかに行くことは少ない。どこかへ出かけるとしてもほとんどは結月が一緒で、結月はそのことを嬉しくも誇らしくも思っていたが同時に、自分が玲菜を縛りすぎているのではないかと不安に思っていた。
だから最近玲菜が自分で考え自分の都合で動いてくれることを嬉しく思っていた。
夕食後、玲菜の部屋を訪れた結月はベッドの上で玲菜に膝枕をされながら今日のことを聞いていた。
今日姫乃が休みだと聞いて見舞いに行くと言い出したのは玲菜だ。それがすでに意外ではあったが、止める権利はあるわけもなくこうして事後の話を聞くくらいしか結月にはできない。
今回のことだけでなく、天音と出かけたこと、香里奈の姉に会いに行ったことなど深く聞こうとしてるのは結月のほうだ。
自分の知らないところで玲菜がどうしているのかそれを気にしてしまうのは
(寂しいからなのかな? やっぱり)
何年も玲菜のことを独占していたのに今年になって一気にその状況が変わってしまったのを寂しいと思う気持ちは確かに存在する。
(このままじゃいけないって思ってたくせに、勝手だな私……)
そんな自分をおかしく思いながらも膝枕をされている結月は気持ちを表に出すことなく手を伸ばして玲菜の頬に触れる。
「で、姫乃ちゃんは大丈夫そうだった?」
結月がそうすると玲菜は大体結月の頭を撫で返す。
「うむ。元気そうではあったのだがな。熱はまだありそうだったな。顔も赤かったし」
今日も例にもれず結月の頭を優しく撫で返しながら玲菜は答えた。
「ねぇ、もしかして、玲菜ちゃんが熱測ったりしたの?」
玲菜の行動がある程度予測できる結月は不安というか、少なくともあまりいい気分をしないでそれを尋ねた。
「あぁ、そうだが?」
「もしかして、いつものやり方じゃ、ない、よね?」
「ん? 熱を測るにはあれがいいと言ったのはお前だろう?」
「そ、それは……」
結月は困った顔をしながら玲菜の言ったことに当惑する。
それはまだ小学生だったころ。風邪を引いた玲菜の熱を測るときにふざけてしたもの。
おでことおでこを合わせるなど、意味があるなしにかかわらずこの年では普通はしないものだ。だが、玲菜は結月の言葉を真に受け、ずっとそうしている。
もっとも、今日姫乃にするまでは相手は結月だけだったが。
「そ、それは私にだけなの。他の人にはしちゃだめ。ま、姫乃ちゃんならまだいいけど。他は絶対に駄目だからね」
(……もうするなって言わなきゃいけないところ、だよね)
また自分の心に矛盾が生じているを感じながら結月はぷいと顔をそむけた。
一般常識を覚え、他の人との時間を増やしていく。
それは玲菜にとっていいことのはずなのに、素直に喜べない自分がいる。
その気持ちを複雑に感じながら今はただ玲菜の膝枕の感触に酔いしれるのだった。