(もうあれから何年も経っちゃったんだなぁ)
行為の後、互いに一糸まとわぬ姿でベッドに横たわりながら結月は玲菜に体を寄せ初めてのことを思い出していた。
あれから何度体を重ねたのかわからない。
適当な理由をつけて、定期的に玲菜を求めた。それはもちろん体を重ねることそのものが目的ではなく打算がある。
玲菜の傷を確認したいということと、こうして体をさらけ出すことがあればもしかしたらそれを気にして玲菜が辞めてくれるかもしれないという期待するものおこがましいような希望。
だが、そんな淡い期待な脆くも崩れ玲菜は自分を傷つけることを止めることはなく玲菜を【見捨てたまま】数年が過ぎてしまった。
「……すぅすぅ」
「……玲菜ちゃん」
穏やかな寝息を立てて眠る玲菜の横顔を見つめ結月は切なさを込める。
こうしてみている分には普通の美少女でしかない。とても、手首に生々しい傷を自らつけるような人間には見えない。
いや、こうして寝ている姿以外ではなおさら。
常に冷静で落ち着いていて、めったに心を乱す姿など見せない。人づきあいが苦手ということ以外はまったくの優等生でしかない玲菜。
結月にはそれが不思議でならない。
リストカットをするということは心に何かがあるはず。それも普通でない何かが。なのに、平然と普通と変わらない学校生活を送ることができる理由が結月にはわからない。
玲菜は大したことではないと言っていた。
それがそのままの意味であればおかしくはないかもしれないが、大したことでないはずはない。
それはわかるのに…………
「玲菜ちゃん………」
結月は玲菜の体を抱く。
「私……見捨ててなんてないよね?」
玲菜のぬくもりを、生きているという証を感じながら結月はすがる様に言った。
その姿と、姫乃に見捨てていると言われ泣いてしまったことが自分で一定以上そのことを認めてしまっていると結月にもわかっている。
玲菜の傷を知り、体を重ねるようになって数年。
慣れてしまった。
玲菜と行為を重ねることも、玲菜の傷を見過ごすことも。
「……ね?」
このままでいいわけがないと自分でもわかっていた。
こんなことを続けていても何の解決にもならない。玲菜の傷を解決するどころか、抑止力にすらなっていないことはこの数年と、玲菜の変わらない傷が示している。
「……ねぇ……玲菜ちゃん」
結月の頬には涙が伝う。
姫乃に叱責され、心の痛みを付かれた結月は玲菜を求めてしまった。とってつけたような玲菜のためという理由すらなくただ玲菜を求めた。
「………私……」
涙が溢れてくるのを止められない。
何もできていない自分を思い知らされて、その無力感に結月は泣くしかなかった。
「……どうすれば、よかったの……?」
それがわからない。
あの時はああするしかなかった、玲菜の言うとおりにするしかなかった。そうしなければ玲菜とどうなっていたかもわからない。
だが、あれさえなければ………もしかしたら
「っ……玲菜ちゃん……玲菜ちゃん……」
結月は玲菜の腕を取る。傷のある腕を。
「………ん。ちゅ」
迷わずにその傷を舐める。
味気ない。玲菜とて毎日しているわけではなくて常に血の味がするわけでもない。
「ちゅ……ぺろ。ちゅ」
しかし、独特の風味というか匂いがする。鉄の味、血の匂い。ざらっとした舌触り。
「好き……好きだよ……玲菜ちゃん……れなちゃん」
玲菜でしか感じられない触感を得ながら結月は
「っ……ん、ちゅ……あむ……ひぅ…ぐ」
涙を流しながら玲菜の傷を舐めることしかできなかった。