「………………」
台所へと戻っていった美織を薄目で見ていた理々子は、唇に指を当てていた。
(……美織)
なんとも可愛らしいキスだった。
頬に触れる手は少し震えていて、唇を合わせるのも一瞬だけ。美織の年齢にふさわしい甘いキスだった。
実は美織がこの部屋に来たときから理々子は起きていた。というより、最初から眠っていたわけではないのだ。
美織がやってきたのは当然気づいていたし、告白めいた独り言も聞いていた。
キスをしてくるのではとも思ったが、目を覚ましたふりをしてそれをとめようとはしなかった。
「ん……」
もう一度、理々子は唇に手を当てキスを思い出す。
キスを受け入れたこと。それを……後悔はしていない。少なくとも今は。
嬉しいとかそういうことでは語れない感情を抱いてはいるが、少なくても嫌だったわけではない。
嫌ではなかったが
「………………」
困ったような、本当に誰が見ても困ったような顔をして理々子は先ほど美織の後ろ姿を思い出す。
「…………あなたは」
それから、今度は悲痛を込めた表情となり
「……【妹】なのよ」
決して美織には聞かせられない声色でそういっていた。