「ぅ…く……ひっく……ひぐ」

 涙が、止まらない。

 これまで沙羅は泣き続けてきた。

 望がないと勝手に決めつけ絶望し、自ら育てた想いの深さと業を恐れ、そして今

「のぞ、み……ひぐ」

 望を追い返した部屋で沙羅はベッドの上でうずくまっていた。

「ひぐ……っ…ひっく。うぁ…あぁあ…ひぐ」

 永遠にとまらないのではと思えるほどに悲痛な声を上げて。

「……わ、たし…は……なんで……っぁ、ぅぅあ」

 昼間のことを思い出し、沙羅は頭を抱え震える。

 そのときを思い起こしながら

 

 

「っ……!!

 沙羅の手が望の服の下にもぐりこむと望は沙羅にも伝わってしまうほどはっきりと体をびくつかせた。

「ぁ……」

 しかし、蚊の鳴くような声をあげた後、それを抑える。

「…………」

 だが、どんなに小さな声だろうと沙羅がいるのは目の前だ。聞こえてしまう。そのしまったという声が。

 沙羅はこのとき自分が何を考えていたのかよく覚えていない。あまりにも興奮しすぎていて、まともに頭が働く状態ではなかった。

 ただ、少しとまったかと思うと

「っ!!?

 望のお腹に当てていた手をゆっくりと下へと下げていった。

 ゆっくり、本当にゆっくりと。

 望は今度は声を上げることも、はっきりと震えることもしなかった。

 代わりに

 カタカタ……カタカタ

 小刻みに自分でも自覚できていないであろうなほど小さな震えをしていた。

(…………………………………………)

 それも沙羅は感じてしまう。直に触れているのだから。

 それでも沙羅の手は、指は望の下へと入っていき、スカートの下へともぐりこんでいく。

「……………」

 声を上げない望。

 

 何でも言うこと聞く。

 

 我慢、するから。

 

(っ!!!

 急に頭にリフレインした言葉。

 その瞬間。

「ぁ!?

 沙羅は体を望に重ねていた。

 服の下にもぐりこませた手はそのままに、沙羅は望に体を重ねると、頭をベッドにおしつけた。

 そして……そのまま沙羅は。

 

 

(……何も、できなかった)

 何をしてもいいといわれたのに。

 何でも言うことを聞くといわれたのに。

 結局あのまま何もできなかった。

 ベッドに突っ伏した状態で熱い涙を流しどのくらいの時間をすごしたのかわからない。

 その状態のままいつのまにか

 

……帰って

 

 そういっていたのだけは覚えていた。

「……なんで……?」

(どうして?)

 何をしてもいいと言われたのに、あそこまでして悲鳴ひとつあげられなかったのに……憎たらしくすら思ったのに。

 何もできなかった。

 心のどこかではそれを当たり前にも思っている。

 欲しいのは行為じゃない。

 気持ちだ。

 好きだという気持ち。愛しているという想い。

 行為だけ恋人のふりをしても何の意味もない。

 望は残酷すぎた。

 あそこまでして、ゆがんではいてもあれだけの想いをぶつけて、それでも望は沙羅をそういう対象としてみてくれることはなかった。

 少なくても沙羅にはそうとしか思えなかった。

「………」

 沙羅の想いは純粋だった。純粋であるが故に歪み、望と自分を傷つけることになった。

「………………」

 一度歪んでしまった想いはそう簡単に元に戻ることはないのだろう。

「………………………」

 いや、もしかしたらそれはもう元に戻ることのないものなのかもしれない。真っ白なキャンパスに塗られた黒が消すことができないように。

「………れて…やる」

 その想いの行き着く先、それは沙羅にはわからない。

 ただ今思うのは

 ぎゅ。

 何か衝動のようなものに突き動かされたように沙羅はベッドシーツを、握る。いや、握りつぶすという言い方のほうが正しかったかもしれない。

「……………ふ、ふふふふ」

 しばらくそうしてからくしゃくしゃになったシーツの上で仰向けとなる。

 そして、

「……きらわれて、やる」

 そうつぶやきながら頬に熱い涙を流すのだった。

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