テスト前だっていうのを理由に私はあんまり三人と時間を作らないようにしていた。もちろん、お話はするし給食を一緒に食べもする。ただ、放課後いつもなら遅くまでお話したり、誰かのお家に集まっておしゃべりしたり勉強したりすることもしないですぐに帰ってた。
表向きは一人で勉強したいって言うことにしてたけど、そんなのは嘘。ううん、嘘をついてるつもりはなかったけど、勉強なんかに集中できるはずはなかった。
二人のことや、みどりちゃんのこと、何気ないおしゃべりやスキンシップ。
それらが全部、そういうことにつながってしか考えられなくて三人だけじゃなくて、誰かといるのがつらかった。
みんながそういう風なことを考えてるわけがないって思うし、それはきっとそうなんだろうけど、それが信じられなくていつも一人でいたいって思うようになっちゃってる。
でも、お友達じゃなくなるっていうのも考えられなくてテストっていう逃げ道を失った私は、
「ようやく終わったねー」
「そうね」
「うん〜。疲れたよぉ〜」
今も、困ってた。
テスト明けの日。みどりちゃんがみんなで遊びに行こうって誘って来て、ここ最近一緒にいなかった後ろめたさもあってうんって言っちゃたけど、やっぱりどうすればいいのかわからなかった。
「…………」
テストの打ち上げに集まった喫茶店で、ほとんど会話に入れずメニューを眺めるしかできない私は、そんな中でもちらちらと正面に座る葉月ちゃんと藍里ちゃんを見ていた。
(……知ってるから、なのかな……?)
二人の距離が短く見える。隣にいるみどりちゃんと私の距離よりも二人は近くにいるような気が
「撫子―?」
「ひゃ!?」
パサ。
急に葉月ちゃんに話しかけられて思わずメニューを落としちゃう。
「何やってんのよ、撫子」
「ご、ごめんね」
言いながら私は机の下に頭を入れて落としたメニューを取ろうとした。
(っ!!?)
メニューを手にして、何気なく視線を正面にした私はあの時ほどじゃないけどまた衝撃を受けた。
(手、繋いでる)
テーブルの下、普通にしてれば見えない位置で葉月ちゃんと藍里ちゃんが手をつないでた。それも指と指を絡めて。
「撫子ちゃん〜? どうかしたのー?」
それに目を奪われていて、なかなかテーブルの下から顔を出さない私を心配したのかみどりちゃんはそう声をかけてきてようやく私は二人の手から目を離すことができた。でも、結局その光景は、キスほどじゃなくても私の心にやきついて、今日も私だけが世界からはじき出された時間を過ごすしかできなかった。
今日も、一人。
お昼休み、これまでなら葉月ちゃんと藍里ちゃん、みどりちゃんと一緒におしゃべりをしていたけど、そんな気持ちにはなれなくて行くところもないのに用があるからってふらふらと教室を出て行っていた。
今は、図書館を出てきたところ。校舎から歩いて五分近くもかかる図書館は、多分他の学校のものと比べてもこの学校の例にもれず大きなもので一般的な市民図書館くらいの大きさがある。
蔵書量も多くて、文学書や歴史書から昔の漫画とかまでそろっていて時間をつぶすにはもってこいのはずなのに、私は集中できずに十分も経たないで出てきちゃっていた。
「はぁあ…」
ため息をつきながら、図書館から校舎への道を歩く私は気分転換にと思って周りを見回しながら歩く。
図書館から校舎は一本道になってるわけじゃなくて、遊歩道というほどじゃないけど動物園とか遊園地みたいに景観が整えられている。
特に中庭なんかは、庭園って言ってもいいくらいで、手入れのいった草花や、それらで作られたオブジェなんかがあって、入学した当時なんかはすごいなぁって思ってた。
さすがに三年生にもなると見飽きてはくるけど、綺麗だって思うのは変わらなくて、何かに集中していないとそういうことを考えちゃうこともあって今までにないくらいに集中して中庭を見ていた。
それが……まずかった。
何気なく歩いているだけならきっと気づかなかった。見えたとしても、気のせいかなとも思ったかもしれない。
(あれ、は………?)
視線の先に見えるのは、顔まではわからないけど二人きりでいる生徒。私が歩いている歩道から離れ、中庭の目立たないところ。建物の陰になっていて、しかも中庭の草花やオブジェのおかげで多分、正面から見たこの位置じゃないと気づかない場所。
そんな、人気のない場所にいる二人。
(だ、駄目だよ。何、考えてるの?)
今までなら、あんなところで何してるんだろうって思うだけでそのまま通り過ぎていたって思う。でも、私は何かにひきよせられるようにそこに近づいて行った。
周りを確認して、音を立てずにゆっくりと。
そして、建物の陰から覗くように見たのは……
「ん、……ちゅ」
「ふぁ……もう、まだ昼休みよ」
「だってぇ……はむ」
「ふふ……」
別のクラスの子と、知らない、多分下級生の子。
(あ、あ……あ)
下級生の女の子が壁を背にしながら
「ちゅあ…、くちゅ」
キス、をしてる。
それも、葉月ちゃんと藍里ちゃんがしてたみたいな大人な、キス。
(っ!!)
胸がすごく熱くなった。あの時みたいに体中が恥ずかしさで沸騰しちゃいそう。
(……だ、だめ!)
二人の行為に目も心も奪われてまた動けなくなっちゃってたけど、すぐに心がそう言ってきた。
(駄目、駄目だよ。こんなの、見てるなんて……)
「ふぁ……可愛いよ」
(ううん! いけないことしてるのは……)
私だけど……私じゃないよ! が、学校でこんなことしてる方が悪いんだもん!
「ぁ、はぁ…先輩……もっと……」
(だめ、だめ、だめ!)
一度離れた二人の唇がまた重なるのを見て心が必死になって声を上げる。
へ、変、だよ。こんなの、おかしいよ。
体中が変になっちゃいそう。すごくドキドキして、立ってるのもつらくなるくらい。
「……ぅ、はぁ……大好きよ」
「はぁ……はぁ、私もです」
頭の中が真っ白になっていた私はいつのまにか二人がキスをやめて抱きあっているのに今更気づいた。
(い、今の、うちに……)
離れる隙がなかったんじゃなくて、自分から離れようとしてなかったくせにそんな風に思って私は細心の注意を払いながらその場所を去って行った。
(……みんな……みんな、変、だよぉ……)
【みんな】って思っちゃう。
それをどうしようもなく不安に感じながら。