その日黒峰さんのことはなんとなく頭から離れなかった。
後から思い出してみると、あの時にあの場所でキスをしてたのは黒峰さんと同じクラスの人だった。
そして、逃げるように走っていった黒峰さん。思えば、なんていうのはそう思おうとしているからかもしれないけど、なんだか……あの時の黒峰さんは、私に似てた気がするの。勝手にそう思っているのかもしれないけど、クラスメイトのキスを見て、それがショックで逃げてきたんじゃないかって思った。
だから、本当に身勝手だけど、話したこともないくせに親近感みたいなのを感じちゃってた。
もう少し気持ちがはっきりしたら話してみようとも思えたのかもしれないけど、次の日に起きたあることで黒峰さんのことは頭の隅に追いやられちゃった。
それは、
「すぅ……」
深く息を吸って
「はぁー」
大きく吐く。
目の前には装飾の施された扉。
ここは、学校の外れにある第二音楽室の前。第二って言っても、生徒数が減ってきた今はほとんど吹奏楽部の荷物置き場になってて普段人がいることはあまりない場所。
じゃあ、なんでこんなところにいるかっていうと、それはお昼休みの終わりこと。
最近になってからは珍しく四人で過ごした私はチャイムがなったことで席に戻って五時間目の準備をしようとした。
「あれ?」
すると、机の中に入れた手がなんだか柔らかいものに触れて、取り出してみるとそれは純白のハンカチだった。
(誰のだろう?)
心当たりのなかった私は何か人を特定できるものがないかなって綺麗にたたまれたハンカチを開くと、その中からはお手紙が出てきた。
ますますなんだかわからない私は、いいのかなってちょっとだけ不安になりながらもそれを開くと
放課後、第二音楽室に来て
って、丁寧な字で書いてあった。
それと、隅に灰根聖っていう名前。
はいねひじり、さん。
それは、クラスメイトの名前で私の隣の列の一番後ろに席がある人。
だから、思わず灰根さんのほうを見ると、灰根さんは私がお手紙を見てそうしたことがわかったみたいで優しく微笑んでくれた。
その笑顔にはどんな意味があるのか、どうして呼び出すのはもわからなかったけど、灰根さんはその後休み時間も清掃の時間もすぐに私の前からいなくなっちゃって、結局話す機会はなくて、理由のわからないまま私は第二音楽室に向かって行っていた。
(別に教室でもいいのにな)
なんてことと、もう来てるかな、なんて思いつつ、そもそも開いてるのかなとも考えながら私は扉に手をかけると
(あ……)
あっさり、扉は開いてそのまま音楽室の中に入っていった。
「…………」
ぱっと見、そこには誰もいなくて、青いじゅうたんの上にほとんどなる機会のないピアノや吹奏楽の楽器たちがあるだけ。
(まだ、来てないのかな?)
そう思って私は二歩、三歩と足を進めていくと
ガチャン
カギを閉められるような音がして
(え?)
って思って、振り向こうとしたときには。
「ふふふ、いらっしゃい」
後ろから灰根さんの声がして
「撫子さん♪」
甘く、色香を感じさせる声と一緒に
(えぇええ!!?)
私は抱きしめられていた。