聖ちゃんと話した翌日から私は、元気になれた。
聖ちゃんとお話しできたおかげで、みんながそうじゃないってわかったから。それまでは私以外はみんなそういうこと考えてるんじゃないかって怖くもなって、一人なんじゃないかって、思い込むように思ってたけど、私よりも全然いろんなことを知ってる聖ちゃんからそうじゃないって言ってくれた。
独りじゃないっていうこと。この世界で私だけが取り残されてるんじゃないっていうこと。それがわかって曇ってた心が一気に晴れて行った。
(みどりちゃんは、違うもんね)
それになにより私を元気にさせてくれたのはそう思えたこと。
聖ちゃんが言ったように、そういう人たちって違う。距離感とか、雰囲気とかうまく言葉にできることじゃないんだけど違うっていうのはわかる。
それで、みどりちゃんは違うって思えた。みどりちゃんは全然そういうところがない。あの後一緒に聖ちゃんと帰った時に、聖ちゃんもそう言ってたし、なによりも聖ちゃんが、「みどりさんのことを一番わかってるのは撫子さんでしょ」って言ってくれて、それが私を勇気づけてくれた。
みどりちゃんのことは私が一番知ってる。その私が、みどりちゃんがそうじゃないって思うんだもん。みどりちゃんは、今までと同じ私の親友。とっても、大切なお友達だって改めて思えた。
それに、葉月ちゃんや藍里ちゃんとだって、完全に前みたいにっていうわけじゃないし、まだそういうことを考えちゃって恥ずかしくなったりもしちゃうけど、でも、一人じゃないってわかったら前よりはちゃんとお話しできるようになった。
もっとも、キ、キスとかしたいっていう気持ちはまだまだよくわからないのは変わらないけど。
それでも、聖ちゃんとお話しできたのは本当に私にとって大きなことだった。
葉月ちゃんと藍里ちゃんのキスを見たおかげで、お友達が増えたって思えるくらいに私は前向きになれていたけど、
聖ちゃんとお話ししてから初めての週末、私はまた人は不便なんだって思い知らさせる。
「えへへ〜」
土曜日の夜。今日は、久しぶりにみどりちゃんがお泊りに来ていた。
少し前ならお泊りなんて、絶対に考えられないっていうか、余計なことまで考えちゃってたけど、みどりちゃんなら今の私なら平気だって思えた。
誘ってきたのはみどりちゃんのほうで、そのみどりちゃんはお風呂から上がってくると私のベッドの上でみどりちゃんが私に作ってくれたクマのぬいぐるみをぎゅーっと抱いている。
「撫子ちゃんに大切にしてもらってる〜?」
久しぶりに自分のぬいぐるみに会えたのが嬉しいみたいで、みどりちゃんはその名前にふさわしく緑色のパジャマを着ながらベッドの上でぬいぐるみとお話ししてた。
(……可愛いなぁ。みどりちゃん)
私はそんなみどりちゃんを見てはそう強く思う。
無邪気な笑顔を浮かべながらぬいぐるみを抱く姿は本当に可愛いって思うし、お風呂上りのしっとりとした雰囲気が普段のみどりちゃんとは違って一層魅力的に見せていた。
(……でも、お話しってなんなんだろう?)
お風呂から上がってからずっとそうしてるみどりちゃんを見て私はそれを思う。
実は今日、みどりちゃんはただお泊りに来たんじゃなくて、お話ししたいことがあるって言ってた。
それが何かお話ししてくれなかったけど、大切なことな気がしてた。
だから、私は同じくベッドの隅に座りながらみどりちゃんのことをずっと待ってる。
(やっぱり、受験のことかな?)
まだ正式なものじゃないけど、志望調査の紙をもらってる。うちの学校には、隣駅に高等部もあるけどエスカレーターじゃなくて一般受験がほとんどだし、もう少し遠くなれば別の高校もあるからそっちに行く人も結構いるみたい。
もちろん、ほとんどは距離的なこともあって高等部に進むけど。
「……撫子ちゃん〜?」
「え? わっ!?」
またみんなと一緒だったらいいななんてのんきに考えた私はいつのまにかみどりちゃんが、ベッドに手を付きながら迫ってきてるのに気づいてびっくりした。
(わ、わわわ……)
視線を前に向けたところで丁度、みどりちゃんのパジャマと肌に隙間ができてるのが目に入ってきて、ブラジャーまで見えちゃった私はすぐに目をそむけた。
みどりちゃんといるのは平気だけど、何も知らなかったときより全然こういうのには反応しちゃう。
「ん〜? どうしたの〜?」
(わ、だ、だめだよ。みどりちゃん)
みどりちゃんはそのままの体勢で首をかしげて、パジャマと肌の隙間がまた大きく開くのが見えちゃう。
「な、なんでもないよ。そ、それよりなぁに?」
このまま見てたらまた顔が赤くなっちゃいそうで私は無理やりに話を進めようとした。
(あ、でも……こうやって無防備なのは……やっぱり、みどりちゃんが違うっていうことだよね)
ふと、そんなことも考えちゃう。私は、聖ちゃんに注意されてから必要以上にそういうの気にするようにしてるから、なおさらそうおもっちゃ……
(……あれ?)
「………………………あのね〜」
みどりちゃんは私がなぁにって聞いてから私の前に座って、しばらくの間無言だったけどそう切り出す姿に私は、違和感を覚えた。
「えっとね……」
みどりちゃんは手を組んだり、解いたり胸の前で抑えたり落ち着かない様子を見せる。
(あ、……あれ?)
その間に私が感じる違和感はどんどん大きくなっていく。
それは、私の知らないもの。
でも、知ってるもの。
「いきなりこんなこと言うと、変に思われちゃうかもしれないし、笑ったりしないで聞いてくれたら嬉しいなって思うんだけどぉ……」
いつもおっとりしてて、話してるだけで周りをほんわかとさせてくれるみどりちゃんだけど、今は違う。間延びした話し方は変わってないように見えるけど、それはきっと緊張からきてるものだし、いつも笑顔のみどりちゃんがこんな風に戸惑った顔をするなんてめったいない。
「う、うん」
その姿に私はドキドキしっぱなしで、いつのまにか握った手に汗をかいてるって今更気づいたりしてる。
(だ、って……今のみどりちゃんは……)
知らない、みどりちゃん。でも、知ってる。
私はもう、【こういう世界】知ってる。
それは、私が戸惑った世界。ううん、戸惑ってる世界。聖ちゃんのおかげで、そういうものを見ても見ないふりをすることができるような気がしてたけど、でも私はもうあるんだっていうのを知っちゃってる。
たとえ見なくても、そこにあるんだって。
だから、みどりちゃんのことがわかる。
そういうことを考えてるんだって、
(……わかっちゃう!)
人は、やっぱり不便だって思う。
知っちゃったらもう戻れない。
そのことをなかったことになんかできない。
「あたしぃ……藍里ちゃんのこと」
人って、本当に不便だ。
「好きになっちゃったみたいなのぉ……」