「……………」
「……………」
黙ったまま見つめあう。
聖ちゃんは持ってきた飲み物をテーブルに置いて、私から距離を取ったまま近づいてこない。
私もその紙を持ったまま聖ちゃんを見つめるだけで何も言い出せない。
何をいったらいいのかわからないんだもん。どう聞けばいいのかわからない。なにを聞いたらいいかわからない。
どんな答えが出るのかわからないから。
信じてるけど、聖ちゃんのことは信じてるけど!
「…………ねぇ、これ、何?」
聞きたいけど、聞きたくなくて。
でも、信じてるから、信じたいから私は聖ちゃんに向き直ってそれを尋ねた。
「どうして、こんなものがあるの? なんで聖ちゃんの名前が書いてあるの?」
本来そんなのは私が口出すことじゃない。いくら付き合ってても、そんなことに関して踏み込むのは違う。
それに、たとえ聖ちゃんが遠くに行っちゃうんだとしても私のことを好きじゃなくなるわけじゃない。
そんなの、わかってるけど。
「あはは、それはちょっとためしに書いてただけ。別にそこを受けようって思ってたわけじゃないわ」
聖ちゃんは明るく言った。
私から目をそらすこともなく、誠実な目をして。
嘘をついているようにはとても見えない。
でも、だからこそ
「撫子さんを置いてどこかにいくわけないでしょ」
聖ちゃんが嘘をついているような、そんな気がした。
「まして、その痛みを知ってる私がそんなことするわけないわ」
ううん、気じゃなくて、きっと聖ちゃんは………
背筋がゾっと冷えるような不安。頭の奥がチリチリと焦げるような焦り。
聖ちゃんの気持ちを疑ってなんかないのに、今聖ちゃんが嘘をついてるってわかっちゃう。
「………聖ちゃん」
「だから、撫子さんは何にも心配してく……」
「聖ちゃん!」
たまらずに大きな声を出しちゃった。
だって、もう聞きたくないんだもん。聖ちゃんの嘘をついてる声を。
「ねぇ……どうして? どうして、何もお話ししてくれなかったの?」
私が気にしてるのはこれ。
さっきも言ったけど、聖ちゃんがどこの学校に行くかを私が意見するなんて間違ってる。だけど、遠くに学校に行っちゃうかもしれないのに何にも話してくれないっていうのは悲しいよ。
「………後で、話そうって思ってたわ」
「………本当?」
あれ? なんで聞き返しちゃったんだろう。これが嘘だっていう根拠どこにもないのに勝手にそう言ってたよ?
それってつまり
(……私が聖ちゃんのこと信じてないっていうこと……?)
そんなことあるわけないけど。でも……
「あは、本当よ。私が撫子さんに嘘をつくわけ……ない、じゃない」
嘘だ。
聖ちゃんは誤魔化そうとしているんだと思うけど、全然できてない。
自信なさ気に漂う視線が、自分に罰を与えるように腕を強く握りしめる手が、儚げに潤む瞳がそう語ってる。
(本当、なんだ……)
逆にそれがわかっちゃった。
聖ちゃんはこの学校にいくつもりだったんだ。きっと私に内緒で。
(………………聖ちゃん)
悲しいよ。すっごく悲しい。それに胸が痛いよ。だって、聖ちゃんが……裏切ったってことだもん。
聖ちゃんが好きだった【あの人】と同じことを私にしようとしていたってことだもん。
「……………聖、ちゃん」
私は傷ついた……聖ちゃんの手を取って両手で包み込んだ。
「お話し、して」
そして、聖ちゃんの顔をしっかりと見つめてそう言った。
傷ついたよ。私も。
でも、私は聖ちゃんの恋人だもん。
わかるよ。聖ちゃんが傷ついてるって。私よりも悩んで、苦しんで、痛がってるってわかるよ。
だから
「一人で悩まないで。私にお話して? 私は聖ちゃんの恋人だよ。聖ちゃんの力になりたいの」
心からそう言った。
それが聖ちゃんの決意を固めることになるなんて夢にも思わないで。
「撫子さん………ありがとう」
聖ちゃんは吹っ切れたようにさわやかに笑ってくれて
信じたくないことを言った。
「…………私たち、終わりにしましょう」