「今日は、ありがと。久しぶりにこんなに人と話せた。っていうか、笑ったのも久しぶりだったかも」

「ううん。私も楽しかったから」

「そ。……あんたさ、撫子、だっけ?」

「? そう、だけど」

「じゃあ、これから撫子って呼んでいい?」

「い、いいよ。もちろん」

「あんがと。私のことも名前でいいわよ」

「う、うん。奏、ちゃん」

「……っ、ちゃん、か……」

「あ、あれ? やだ?」

「うーん、ま、いっか。撫子の好きに呼んで」

「うん、奏ちゃん」

 

 

 そんなお話をしながら学校に戻ったのは一日の授業が終わるころだった。

 どんな風な顔をして戻ればいいのかわからないけど、戻らないわけにはいかないのは当たり前で、こんなことがばれれば絶対に怒られちゃうのもわかりきってたからさすがに気が重く逃げ出したくもあった。

 でも幸いというかなんというかどうやって教室に戻ろうかもわからなかったけど、敷地を入ったところでさっそく先生に見つかっちゃった。

 それで、職員室に連れて行かれてしばらくは怒られっぱなしだった。

 無断で学校を抜け出したんだから怒られるのは当たり前で素直に怒られるしかないって思ってたんだけど色々あって、職員室を出れたのは下校時間間近のことだった。

「まったく!」

 職員室を出て、一緒に教室に荷物を取りに向かっていると奏ちゃんは怒るっていうよりは機嫌の悪そうに言った。

「撫子は悪くないって言ったのにさ、全然聞く耳も持ってくんないんだから」

「しょ、しょうがないよ。一緒に行ったんだし」

「だからって、私が誘わなかったら撫子はサボるつもりなんてなかったわけじゃない。なら、悪いのは私でしょ。私だけを怒ればいいのに」

「そ、そんなことないよ。ついていくって決めたのは私なんだもん。……私も、奏ちゃんとお話したかったし」

「………でもさぁ」

 こんな時間まで遅くなっちゃった理由はこれもある。

 奏ちゃんは怒られ始めるのと一緒に、【悪いのは私だけ】なんて言いだして、何かにつけて私のことをかばってくれたりしたから、そのたびに押し問答になっちゃって、しまいにはそのことまで怒られ始めちゃって気づけばこんな時間になっちゃったの。

 今言った通り私は、私が悪くないなんて思ってないし、奏ちゃんのほうが悪いとも全然思ってない。

 そもそも奏ちゃんに話しかけたのは私なんだし、付いていくって決めたのも私。だから、むしろ私は私のほうが悪いって思ってるくらい。

 でも、それを口にしたりはしない。かばってくれた奏ちゃんに申し訳ないし、奏ちゃんがそうしてくれるのも嬉しかったから。

「まぁ、でもこれだけは言わせといて」

「う、うん?」

「撫子がどう思ってても、私は私で責任感じてんの。だから、ごめんなさい」

 そう言って奏ちゃんは深々と頭を下げた。それは言葉以上に実直に奏ちゃんのことを伝えてくれる。

「……うん、ありがとう」

 だから私も奏ちゃんの気持ちに私なりに答えた。

「なんで、ありがとうなのよ」

「え、えっと……なんと、なく」

 うまく説明できないや。でも、こうやって謝ってくれた奏ちゃんにそう伝えたかったの。

「はは、やっぱ、撫子って面白いね。ちょっと変わってるけどさ」

「そ、そう、かな?」

「あんたで、よかった、かも」

「え?」

「話せた相手、撫子でよかった。……【誰か】とは話したいって思ってたんだ。………一人ってつらかったから。私の気持ち……っていうか、【言ってること】がわかる相手と話したかった」

 その気持ちもよくわかる。私も、一緒だったから。

「けど、誰でもよかったんじゃないって思う。あんただから…………………」

「? 奏、ちゃん?」

 こそばゆくなるようなことを言ってくれる奏ちゃんだったけど、急に言い淀んで、徐々に頬を染めていく。

「……やっぱ、恥ずいわ。まぁ、でも……感謝してるのは、ほんと」

「うん。私も奏ちゃんと話せてよかったよ」

「そ、っか」

 安心したようにいう奏ちゃん。

「……ね、毎日じゃなくてもいいし、週に一回くらいでもいいかさ、これからもこうやって二人で話さない? ……今日、話してて、楽しかったからさ」

「うん。私も、もっと奏ちゃんとお話したい」

「そ……んじゃ」

 奏ちゃんは私に向かって手を差し出す。

「これからも、よろしく、撫子」

 私もその手を取って

「よろしくね、奏ちゃん」

 しっかりと握手を交わしながら、またお友達が増えたことを喜んだ。

 奏ちゃんと話そうと思ったきっかけは何にも解決してないことも忘れて。

 

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