それで今こうしてる。
初めて部屋を見た時はちょっとびっくりした。聖ちゃんらしくないお部屋って思ったから。勝手な想像だけど、もっと華やかな、普段の聖ちゃんを感じさせるようなお部屋かと思ってた。
「熱いから気を付けてね」
聖ちゃんは自分もカップを手にしたまま私の横に座ってそう注意してくれる。
「う、うん」
受け取ったカップを忠告通りにフーってしてから一口口をつけると
「あつ!?」
舌先が熱さで鋭い痛みを感じて思わず、カップを揺らして床に少しこぼしちゃった。
「あらら、だから言ったのに」
聖ちゃんはすぐにハンカチを取り出すと、私のほうに身を乗り出して床にこぼれた紅茶を拭いてくれる。
「あ、ありがとう」
って言いながら私は目の前にある聖ちゃんの横顔を見つめる。こんな風に気が利かせられるし、いつも落ち着いていて、やっぱり年の差があるような錯覚を受ける。
だから余計に遠く感じるかも。私なんか体もだけど、聖ちゃんに比べていろんなことが子供だって思うから、昔から聖ちゃんには不思議な距離感があるって感じちゃってたのかな?
「はい、今度は気を付けてね」
「う、うん」
床を拭き終えた聖ちゃんは私に笑顔を向けてくれた。
(…………けど)
違う、気もする。
聖ちゃんの笑顔。いつも素敵で、可愛くて、魅力的だって思う。でも……それだけじゃない気もしちゃう。
この前に、お友達のことを話した時からそう感じるの。
「んく………」
けど、確信のないことだから切り出せなくて私は今度はちゃんと冷ましてから聖ちゃんの入れてくれた紅茶を飲んだ。
ちょっと苦いけど、いい香りがして喉を通っていくと少しだけ頭がすっきりする気がした。
「うん、やっぱり誰かと一緒に飲むとおいしいわね」
聖ちゃんも隣で飲んでいてそんなことを言ってくる。
(……気にしすぎ、だよね)
だって、聖ちゃんはいつも誰かと一緒だし。
「まして、撫子さんみたいな可愛い子と一緒にお茶してるなんて素敵だわ」
「っ!? そ、そんな、私なんか……」
いきなり聖ちゃんがびっくりさせるようなことを言って来て、また紅茶をこぼしそうになっちゃう。
「撫子さんが撫子さんのことをどう思ってても、私は撫子さんのこと可愛いって思ってるの。だから、そんな反論は受け付けません」
「あ、あぅ……」
簡単にあしらわれちゃった。こういうところでも差を、感じる。
それから少しの間、まとまらない頭で紅茶を飲んでたけど。
「………余計なことしちゃったかしら?」
「え?」
唐突に聖ちゃんが変なことを言ってきた。
「あ、あの? どういう、意味?」
「撫子さんが話しづらそうだったから、二人きりのほうが話しやすいし、ここまでくれば言いやすいかなって思ったんだけど。何も言ってこれないのなら、余計なことしちゃったかなと思って」
「え…………」
最初は言ってることを理解するのに時間がかかった。
聖ちゃんは私が聖ちゃんに何かを思ってることを完全に見抜いてた。でも、なかなか話しかけても来ないし、二人きりで下校をしても言ってくれない。けど、私が何かを言おうとしてるっていうことだけはわかってくれて、ここまで誘って来てくれたんだ。
ここなら、誰にも聞かれることはないから。
「ごめんなさい。撫子さん。言いづらいことなら無理に言わなくてもいいわよ。ここに来ちゃったから言わなきゃなんか考えなくてもいいわ。そうだ、確かお菓子もあったから持ってくるわね」
「ま、待って聖ちゃん」
聖ちゃんが今言ったように、義務感みたいなのが私を動かしたのは間違いない。お話をしたいって思ってて、でも何をどう話せばいいのかもわからなくて私は
「……わ、私は聖ちゃんのお友達だよ」
変な話の切り出し方をしちゃってた。