聖ちゃんが何かを言っていたなんて、私に蔑むような目を向けていたなんて私は知るわけもなく次の日も私は聖ちゃんといつもと同じように話した。
傘を返して、貸してもらったお礼にお家にあったお菓子を添えて。聖ちゃんはそれを受け取ってくれながら、手作りだったらもっとよかったのになぁなんていつものようにちょっとおふざけをして。私はますます聖ちゃんとの距離が縮まった気がして嬉しくなれた。
それに、
「なんか、嬉しそうね。撫子」
「うん。ちょっといいことがあったから」
奏ちゃんと会う日だった今日、いつもみたいに二人で寄り道をしながらあの公園でお話し。
「ふーん。それはよかったわね」
「うん! あ、そうだ。奏ちゃんにもこれあげるね」
昨日聖ちゃんともっと仲良くなれた気がした私はご機嫌なままで、珍しく口数も多いまま奏ちゃんとも過ごしてた。
「ありがと。後で私もなんかお返しする」
「い、いいよ。そんなの」
「撫子の意見なんて聞いてない。私がお返しするって言ったんだからするの」
「う、うん」
奏ちゃんてこういう風に有無を言わせないところがあるけど、でも私が遠慮したりとかする時にこういってくれるのは戸惑っちゃうところもあるけど嬉しい。
聖ちゃんとは方向性が違うかもしれないけど、奏ちゃんも相手のことを自分のやり方で思いやれてすごいって思う。
「そうだ。せっかくだし、今度どっかいかない? そこでなんか奢るわよ」
「あ、う、うん!」
いきなりの提案だったけど私は力強くうなづいた。
それでもうわくわくする。
聖ちゃんは私のことをうらやましいって言ってくれたけど、仲のいいお友達はいても私もお友達の数は多くない。
それに、自分から遊びに誘ったりもあんまりしないからお友達と遊びに行くっていうのは嬉しいこと。
奏ちゃんがどうしてまだお友達になってから一か月も経っていない私にこんなに積極的になってくれるのかはわからないけど、引っ込み思案なところもある私は強引に引っ張っていってくれる奏ちゃんは心地よかった。
そんな風に二日連続で新しいお友達と仲を深められた私は今日もご機嫌なまま帰り道を行く。
(奏ちゃんとおでかけかぁー)
あの後、どこに行くかとかいつ行くかとかを話し合って、具体的な話になると余計に嬉しくなっちゃった。
次のお休みって決まったけど、今からもう楽しみになっちゃう。
前にも思ったけど、藍里ちゃんたちのキスを見て変わった世界は私にとって決して悪いものじゃなかった。ううん、むしろよかったって言ってもいいくらい。
聖ちゃんと奏ちゃん。
あんなに素敵な人たちとお友達になれたんだから。
確かにみどりちゃんのことはまだ戸惑うことも多いけど、でもそれでもよかったって言える。
学校の周りよりは人家の多い帰り道を歩きながら私はそう思っていた。
聖ちゃんが私をどんな風に思ってるかも、奏ちゃんが私と仲よくしてくれる本当のわけも知りもしないくせにそんなことを思ってた。
けど、私は知っている。
今の世界がずっと続いたりしないんだっていうことを。
今のいつの間にか受け入れていた世界は急に変わることがある。
それをもう知ってるんだから。
「あれ?」
家までの最後の道に来た私はそこにある人の姿を見つけた。
「みどりちゃん」
その名前を呼びながら私は小走りに近づこうとして………
(…………?)
すぐに歩を緩めた。
「みどり、ちゃん?」
その様子がすぐに普通じゃないってわかったから。
私の家の塀に寄りかかるみどりちゃんはうつむいていて顔も垂れた髪に隠れてみることができない。
けど、わかるみどりちゃんが今普通じゃないって。誰よりもみどりちゃんを知ってる私だから。
「っ………」
大きく唾を飲み込んで、ゆっくりみどりちゃんへと近づく私は
(あ…………)
みどりちゃんの足元のアスファルトが黒くぬれているのに気づいた。
それは………
また、一滴がみどりちゃんの顔から落ちる。
(泣いてるの………?)
ううん、疑問に思うまでもなく泣いてるってわかる。
そして、泣いているみどりちゃんが私に会いに来る理由なんて、一つしか考えられなかった。
「………………」
もう私はみどりちゃんに近づくことが…………怖くて、一歩一歩がどんどんゆっくりになっていく。
けど、反対にみどりちゃんと早くお話ししたいって思う気持ちもあるから一度も足を止めたりはしないで
「みどりちゃん」
心の底から心配して声をかけた。
「っ!?」
私が近づいてきたことすらみどりちゃんは気づけていなくて、きっとそんな余裕はなくて
「なでしこ、ちゃん……」
私を呼びながら顔をあげ
「藍里ちゃんがぁ………」
好きな人の名前をぐしゃぐしゃになった声で呼ぶのを聞く。
「ぅぅぅうぁああぁん!!」
そして、私の胸に飛び込んできたみどりちゃんに、私は【みどりちゃんの世界が変わった】ことを思い知るのだった。