奏ちゃんとお話ししてる間に外はもう真っ暗になっちゃってて、奏ちゃんのお家の人に送っていってもらう、お夕飯の時間もすぎちゃってて、連絡もなしにそんな時間になったことをお母さんに叱られた。
それから遅くなったお夕飯を食べて、明日の準備をして、お風呂に入って今までのことを考えてた。
「はふぅ……」
ちょっと熱めのお風呂が好きな私は今日もその中に体を揺蕩わせてぼーっと天井を見つめる。
(みんな、色々あるんだよね)
初めてみどりちゃんとこんなことになって、私は多分今までの人生で一番大変な時だって思うくらいだったけど。
きっとみんなそんな風に思ってるのかもしれない。
大変な時は自分だけが大変で、他の人はそんなことないように見えちゃうけどそれは誰だって一緒なんだって思うの。
もう、結構前に感じる藍里ちゃんと葉月ちゃんのキスを見た時だって私だけがって思ったけど、奏ちゃんも同じことがあって悩んだりしてたし、そのころからみどりちゃんも恋に悩んでた。私から見たらとっても素敵で完璧に思える聖ちゃんだって、小さいころにはお友達がいないことだってあっていうし、今回も、親友と喧嘩しちゃうっていう悩みですら奏ちゃんと同じものだった。
奏ちゃんは、本当は謝りたいんだって思う。
奏ちゃんがそのお友達とどのくらい仲が良くて、どんなことを言っちゃったのかわからないけど奏ちゃんも謝りたいって思ってるから私にあんなに本気の気持ちを感じさせたんだと思う。
それに奏ちゃんは簡単に言えたんじゃないってわかる。思い返せば時々寂しそうだったり、悲しそうだったり辛そうなところを何度も見せてくれてた。
(うん、頑張らなきゃ)
そんな奏ちゃんのことを思い出すと一層そう思う。
明日、みどりちゃんとお話ししよう。
もしかしたらみどりちゃんはお話ししてくれないかもしれないけど、それでも何度でも言おう。ちゃんとお話ししたいって。
どんなふうに言えばみどりちゃんに許してもらえるのかわからない。でも、言葉じゃなくて気持ちを伝えよう。
それが奏ちゃんの言うようにみどりちゃんの心に伝わるって信じて。
それで、こんなこと思うなんて気が早いかもしれないけど、みどりちゃんと仲直りできたら、もう一度ありがとうって言おう。
奏ちゃんが奏ちゃんのことをお話ししてくれたおかげだって。
きっと私が言えるのはそこまでだろうけど、もしそれで奏ちゃんが喧嘩しちゃったっていうお友達と仲直りできるきっかけになったらって思う。
だから、そのためにも明日頑張らなきゃ。
って私はいつの間にかの長風呂でのぼせながら思うのだった。
次の日私はいつもよりもずっと早く登校してた。
理由はもちろんみどりちゃんと話したいから。昨日は偶然目があっただけで、何にも言えなかったけど、今日は違うの。
昨日だって謝りたかったし、お話ししたかった。けれど、できなかった。
勇気も、覚悟もなくて、向き合う資格もなかったから。
(でも、今日は違うよ)
奏ちゃんに背中を押してもらったから。それになにより、私はみどりちゃんが大好きなんだもん。
嫌われちゃって、たった二日だったけどすごくつらかった。みどりちゃんとお話ししたいときにお話しできないなんてすごく悲しくて、嫌でたまらなかった。
みどりちゃんのいない世界なんて私は、絶対に嫌。
だから、ちゃんとしなきゃ。みどりちゃんに気持ちが通じるように、私の気持ちを精いっぱい話そう。
「……………」
心の中でみどりちゃんへの想いと、奏ちゃんへの感謝を思いながらたまに登校してくる生徒になにしてるんだろうっていう目で見られてたりもしていると
「あ…………」
みどりちゃんの姿が目に入った。
昨日と同じように、暗く井戸の底のような雰囲気をまといながら。
「……んく」
私は緊張に思わず唾を飲み込んでから、今日は目をそらさずにみどりちゃんの前にたった。
「みどり、ちゃん」
「…撫子、ちゃん」
みどりちゃんは私に気づくと苦しそうな顔で私のことを呼んでくれた。
「少しだけ、いい?」
みどりちゃんが私のことを呼んでくれたっていうのが嬉しくて私は勇気を出してそう言った。
「………………うん」
(あ……よかった)
頷いてくれたみどりちゃんに私はほっと胸をなでおろす。
おとといと昨日の様子からすれば、私となんて話したくないって言われちゃうのかと思ってた。
「え、えと……じゃあ」
人前なんかで話せることじゃないから、どこか人気のないところにって言おうとした瞬間。
キーンコーンカーンコーン。
「あ………」
始業五分前を告げるチャイムがなっちゃった。
(どうしよう)
今すぐにみどりちゃんとお話はしたいけど私はともかくみどりちゃんまでさぼらせるわけにはいかないし……
「……放課後、話そう」
って、悩んでいた私にみどりちゃんはポツリと言ってくれた。
それがどういう意図かはわからなかったけど、お話をしてくれるっていうのが嬉しくて私はうんってうなづいてた。