(ほぁ………?)
一瞬何を言われてるのかわからなくなっちゃった。
触れ合ってないだけでほとんど密着してる私とみどりちゃん。
頬を赤らめ、潤んだ瞳で私を見つめるみどりちゃん。
「……………」
そして、ゆっくりと目を閉じるみどりちゃん。
(っ……!!)
その動作に私は改めてみどりちゃんの言ったことを実感した。
キスしよう。
そう言われた。
(ど、どうしてそんなことになるの?)
お、おかしい、よね。だ、だってみどりちゃんが好きなのは私じゃ、ないもん。
みどりちゃんが好きなのは……藍里ちゃん。今だって、みどりちゃんは藍里ちゃんが好きなはず。
今日のデートだって藍里ちゃんのためのデートコースで。
(っ……デート)
そうだ。今日は、デート、だったんだ。
(デート、なら、したりするのかな?)
経験のない私にはわからない、けど……でもみどりちゃんは今……
(したいって思ってるんだよね……)
デート、だから。今日は、【藍里ちゃん】とのデートだから。
「んく………」
唾を飲み込んで、改めてみどりちゃんを見た。
「……………」
さっきと変わらないみどりちゃん。目を閉じたまま私を待つ。
(……………)
私は、みどりちゃんのことが大好き。キスしたいって思ったことはないけど……みどりちゃんとなら嫌じゃないって思える。他の誰でもきっとそうは思えない。すっごく恥ずかしいけどみどりちゃんとなら……
それに、今日はデート、だもん。
それにそれに、みどりちゃんは私が悪くないだなんて言ってくれたし、許してもらえたけど傷つけたのは事実で。
このキスがその罪滅ぼしになるのなら
「みどりちゃん……」
私は小さくにその名を呼んで、みどりちゃんの肩に手をのせた。
「っ」
みどりちゃんも緊張してて、ちょっとびくってなった。
(ちっちゃい……)
私だって同じくらいの身長だけど、抱いた肩はすごく小さく感じて、図々しいけど守ってあげたいって思った。
「………」
胸がすごくうるさく感じて、足も震えちゃってる。
その中で私は目を閉じると、
ゆっくりみどりちゃんに顔を近づけていった。
(これは、みどりちゃんの、ため)
今日はデートだから。みどりちゃんにとっては、藍里ちゃんとのデートだから。
理由をつけて私は、どんどんみどりちゃんとの距離を縮めて行った。
距離にしたもう、数センチ。見えないけど、唇のすぐ前にみどりちゃんの唇があるってわかる。
(これは、みどりちゃんの……)
それを最後の一押しに私はわずかな距離を詰めようと
(みどりちゃんの、ため?)
その考えが浮かんだ瞬間。
「や、やっぱりダメ、だよ」
私はみどりちゃんの肩を掴んだままそう言っていた。
「撫子、ちゃん」
目を開けたみどりちゃんが私のことをさっきとは違う目で見てくる。
「こ、こんなのはやっぱり駄目だよ。み、みどりちゃんのこと大好きだけど……で、でも! 違う、でしょ。みどりちゃんだって、私の、こと……そういうんじゃ、ないよね」
これがほかのことだったらみどりちゃんがしてほしいことはなんでもしてあげたはず、でもやっぱりキスはだめだよ。初めてがこんな風じゃあとで後悔するもん。
「……………撫子、ちゃん………」
「ご、ごめんね」
みどりちゃんが目に見えて翳ってる。で、でもやっぱりだめ。こんなこの時だけの慰めなんて、きっとだめだよ。
ガバ。
「ふぇ?」
悪いことしちゃったかなってちょっと落ち込んだ私にみどりちゃんは抱き着いてきた。
「えへへぇ〜。なでしこちゃんってぇ……やっぱり優しいぃ〜」
「そ、そんなこと、ないよ………」
結局みどりちゃんがどういうつもりだったのかはわからない。けど、こうしてみどりちゃんのぬくもりを感じてると、きっと間違いじゃなかったって思えて、私もみどりちゃんのことを抱きしめていた。