デートはもう、終わり。
抱き合った後そう言ったみどりちゃんは今度はお泊りに来たいって言ってきた。
それはもう藍里ちゃんの代わりじゃなくて、親友として私と一緒にいたいっていうことで、私はもちろんそれに頷いて久しぶりにみどりちゃんと手をつないで私の家に向かって行った。
行く途中も、ついてからも、みどりちゃんと色々なお話をした。一週間近くまともにお話しできてなかった分を埋めるように、私たちは親友の時間を過ごした。
それはお風呂や寝る前までも続いて、いつのまにか日付が変わってて、やっと寝ようかっていう話になった。
「じゃあ、電気消すね」
「うん〜」
部屋の入口にあるスイッチで部屋の明かりを消して、ベッドに戻っていく。
「えへへぇ〜。久しぶりだねぇ、一緒に寝るのぉー」
そこにはみどりちゃんがいて、私はみどりちゃんの隣に横になった。
「うん。小学校のとき以来だよね」
「撫子ちゃん、あったかぁい」
「みどりちゃんだって」
ベッドで感じる人のぬくもり。それってすごく暖かく感じる。もっともみどりちゃん以外は小さいころお母さんと寝てたくらいしか記憶にないけど。
それからまた他愛のないことを話して、でもこれじゃ眠れなくなっちゃうねってすぐにお話をやめた。
「……………ねぇ、撫子ちゃん〜」
少し経ってからみどりちゃんは口を開いた。
それはデートが終わってからずっとしてたおしゃべりとは全然違う響きを持ってた。
「……なぁに?」
「今日、本当にありがとう〜」
それは、今日何度も、何度も言われた言葉。
「うん」
今伝えたいのはこのことじゃないはず。でも、これからのためにこのありがとうが必要だったんだと思う。
「私ねぇ、このまま終わりにするぅ」
「……………」
「藍里ちゃんに、好きって言わない」
「………いい、の?」
「うん〜。藍里ちゃんとは……葉月ちゃんとも、これからもお友達でいたいから〜」
私はシーツをきゅって握った。
それはきっと恋をしたときにほとんどの人が思うこと。告白しないでお友達でいるか、今以上を求めてリスクを背負うか。今回は、もう今以上望めないのかもしれないけど、でも恋を告白しないで終わらせるのは勇気がいることだって思う。
私は恋をしたことなんてないけど、でもそう思うの。
「卒業まで、もう半年もないんだもん〜。少しでも楽しい思い出が欲しいからぁ」
「うん……わかった」
みどりちゃんは言わないって決めた。なら、私はその気持ちを尊重したい。それがきっとみどりちゃんのためでもあるから。
「でもねぇ、撫子ちゃん」
「な、なに?」
「私はぁ、そうするけどぉ、もし撫子ちゃんに好きな人ができたらねぇ」
「う、うん……」
「撫子ちゃんはぁ、ちゃんと好きって伝えてねぇ」
「っ………」
びっくりした。みどりちゃんに言われたことじゃなくて、みどりちゃんが急に手を握ってきたから。
「………うん」
それがどういう意味か分かる気がするから、私は深くうなづいて一瞬だけみどりちゃんの方を向いて、すぐに目を閉じた。
みどりちゃんは、これから泣いちゃう気がする。
きっと、みどりちゃんも言わないで終わらせるのが怖いんだって思う。言いたいんだって思う。でも、私たち四人のために言わないことを選んだ。
どっちが正解とかじゃないけど、みどりちゃんは言わないことを選んだ。そんな自分と今から向き合う気がする。
そして、泣いちゃうんだって思う。
「おやすみぃ、撫子ちゃん」
「おやすみ」
でも、私はきっと何もしないのがいい。抱きしめたいとも思うけど、あの時キスをしなかった私にはきっとここまで。
手をつないで、何も知らないふりをするのがきっと正解。
だから私は目を閉じた。
好きって伝えてねぇ。
みどりちゃんのことじゃなく、みどりちゃんの言葉を噛みしめながら
(……そんな時が来るのかな?)
想像できないその時を思いいつしか眠りに落ちて行った。