「…………」

 みどりは暗くなった部屋の中で呆然と天井を見上げていた。

 手に親友のぬくもりを感じながら。

 頬を流れた涙はもう乾いているが、瞳にはまだまだ熱さが残っている。

「えへへぇ」

 しばらくそうしていたが、みどりはふと隣で寝ている撫子のことを見た。

「んぅ……すー、すー」

 すでに撫子は寝入っていて穏やかな寝息を立てるだけ。

「………撫子ちゃん〜」

 みどりは親友の名を呼びながら、そのある一点を、唇を見つめる。

それから自分の唇を指で撫でた。

「……………」

 昼間、キスをしようといった理由。それは自分でもはっきりしていない。

 ただ、みどりはしてくれなくてよかったと思っていた。

(だって、きっと撫子ちゃんのこと好きになっちゃってたもん〜)

 あそこで優しさに触れてしまったら、そのまま甘えていた。

 そして、きっと撫子はみどりを受け入れてしまったと思う。それが本当の意味でみどりのためにならないとわかっても、目の前で苦しむ親友を助けたくて。

 でも、それはきっと二人とも幸せにはならない選択。

 だからこれでよかった。

 キスをしないことこそが撫子の優しさだった。

「ありがとう〜、撫子ちゃん〜」

 心の底から感謝を抱く。

 今日一日ありがとうと、友だちでいてくれてありがとうと。

 あの日、撫子を恨んだのは本当。

 知っていれば、あんな絶望知らずに済んだ。知っていれば、こんな悲しいデートをすることもなかった。

 けど、それでも。

(ありがとう)

 撫子という親友がいたから、かなわなかった恋を後悔で終わらせることはなかった。

 撫子という親友がいるから、明日からも笑顔でいることができる。

 そのことに心から感謝をして

「ん………」

 昼間とは別の気持ちで撫子の頬に口づけをした。

 

5-6/6話

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