最初から少し変だって思ってた。

 放課後になった私は初めて奏ちゃんを意識した場所から、奏ちゃんの世界が変わった場所を見つめてそう思っていた。

 私と奏ちゃんは同じことを体験した。

 仲のいいお友達が学校でキスをしているところ。

 変わった世界に居場所がないような気がした私は、すがるように奏ちゃんとお話をした。

 その時から奏ちゃんの態度は普通じゃなかった。キスとか、そういうことを恨んでいるようにも見えたし、同じことを見たはずなのに私が藍里ちゃんに思った気持ちと、奏ちゃんが伊藤さんに思った気持ちがあまりにも違いすぎた。

 それに、この前一緒にお出かけしたときに伊藤さんを見た時の反応。

 それは、私と奏ちゃんの差だと思ってた。

 同じことを見ても同じことを思うわけじゃないのは当たり前だから。

 でも、そういう問題じゃなかった。

 違うのは、想いの種類そのもの。

 私は藍里ちゃんのことも葉月ちゃんのことも好きだけどそういう好きじゃないの。

 奏ちゃんの思う好きは私が思ったこともない好き。

 だから、私はどこか奏ちゃんの話していることがわからないってそう思うことがあったんだ。

「…………はぁ」

 俯きながらその場所を離れて歩き出して私はため息をついた。

 そうしたかったわけじゃないけど、勝手に漏れていた気持ち。

 私は奏ちゃんが伊藤さんと仲直りをしたいんだって思ってた。それは、きっと間違いじゃないけど、奏ちゃんが本当にしたいのは………違うことだって思う。

(でも、わかんない)

 ふと、足を止めて空を見上げる。

 冬の始まりの近い空はとても高く感じる。それはとても綺麗でもあるけど、届かないもので。

 どことなく気持ちが落ち込んじゃう。

 って、言い訳にしてるだけだけど。

(奏ちゃんは………仲直り、したいんだよ、ね?)

 それは、絶対に絶対なはず。そういう好きっていう気持ち以前に親友だっていうのは間違いないんだから。親友と仲直りがしたくないはずがないもん。

 けど、そうやって考えるのは、ううん、そういう風にしか考えられないのは、私がキスを見ちゃった藍里ちゃんや葉月ちゃん。それに喧嘩をしちゃったみどりちゃんのことを【好き】じゃないから、なのかな。

 もしかしたら、奏ちゃんがしたいのは仲直り、じゃなくて。

(………………)

 奏ちゃんがしたいかもっていうこと。漠然としたイメージはあるんだけど、うまく言葉になってくれない。

 それは私の知らないものだから。

(奏ちゃん………)

 そのことがもどかして、悔しい。奏ちゃんの力になりたいのに、できない自分が情けない。

「……はぁ」

 何もできない自分に落ち込みながら私は仕方なく歩き出す。ここでこうしてても何かが変わるわけじゃないから。

(あ………)

 けど、少し行ったところで私は不意に足を止めた。

 私がふと視界の端にとらえたのは聖ちゃん。

 中庭から校舎へと通じる道から見える第二音楽室。

 私が何度か内緒のお話した場所の入口に聖ちゃんがいる。

 やっぱり一人じゃなくて下級生の子と一緒に。

 距離があるから何を話しているかまではわからない。でも、楽しそうにも見える。

 聖ちゃんに用があるわけじゃないんだから、このままは立ち去ってもいいのになぜか私はそこから目がはなせなくて、

(っ!!!??)

 目を疑うようなことを目撃した。

 ううん、それはもう疑うようなことじゃないのかも。私がもう何度も見たもの、本当は見ちゃいけないものだけど何度も見ちゃったもの。

 聖ちゃんが、下級生の子にキスを、してた。

(………………)

 聖ちゃんがそういうのに詳しいっていうのはもうわかってたことだけど、してるのを見るのは初めて。

 理由のわからない焦燥感に動けないでいると、下級生の子が聖ちゃんの前から去っていく。

(……さっきの子が聖ちゃんの恋人さん?)

 ……だよ、ね。

 キス、してたんだもん。

 なんとなくそれを釈然としない気持ちのまま思って、その後に思考を切り替える。

(………聖ちゃんはいっぱい、知ってるんだよね)

 私の知らない好きっていう気持ち。

 みどりちゃんの時は何も、できなかった。

 それは正しいって思ってしたことだし、今のみどりちゃんを見て間違いじゃなかったって思ってる。

 けど、奏ちゃんには……

(奏ちゃんには………どうしたら、いいんだろう)

 みどりちゃんの時、みどりちゃんの気持ちが実ってたら葉月ちゃんが悲しむことになってた。

 奏ちゃんがどうしたのかはわからないけど、もしかしたら私のすることで伊藤さんの相手の子が悲しむかもしれない。

 完全に部外者の私のせいで。

(……でも)

 私は、奏ちゃんの力になりたい。

 私がみどりちゃんと仲直りできたのは奏ちゃんのおかげ。それはすごく、すっごく大きな恩。

 その大きさは奏ちゃんがどれだけ苦しんでるかっていうことでもある。恋のことはわからなくても、小さいころからの一番の親友とケンカをしたままなんて絶対に嫌なことだから。

 もしかしたら、私が奏ちゃんの力になることで誰かが悲しむことになるかもしれない。

 でも、そうだとしても………

(奏ちゃんの力に、なりたいよ)

 そう思った私は、まだその場所にとどまっている聖ちゃんのもとへ早足に向かって行った。

 自分勝手でも好きっていう気持ちを少しでも知るために。

 

5/7

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