「ふふ……ふふふ」
撫子を先に帰らせた部屋の中で聖は嘲笑をもらす。
「好きって、何? か………ふふふ」
数分前にあった撫子との時間。会話。仕草。反応。
それらを思い出し、聖は胸の奥の痛みを感じる。
「もう、だめよ貴女は……」
どす黒い何かを吐き出すように声を絞り出し、怒り、というよりは憎しみのこもった目をここにはいない撫子に向ける。
(ちょっと遊んであげるだけのつもりだったけど……予定変更させてもらうわ)
前に勝手に過去を探られたことと、先ほどのこと。
そのどちらも聖のことをわかっていてしてきたわけではないことくらい聖にもわかっている。
だが、知らないということはそれだけで罪になる。
少なくても聖にとっては。
それが逆恨みであると知っていても聖は撫子に憎悪を覚えずにはいられない。
いくら撫子が自分と比べて大人っぽいなどと思っていても、聖は子供だ。自分の中にある感情を制御するにも限界がある。
(……最低ね私は)
自分が撫子に対ししようとしていること。
それがいけないことだと聖は知っている。誰よりもそのことを知っている。
しかし、それでもそれを止めようとはしない。今更、いい人になど戻れない。
「っ………」
聖はさらなる胸の痛みを感じながら、唇を撫でた。
「っかは……っ!」
その瞬間【痛み】を思い出す。
「はぁ……はぁ……はぁ」
涙を浮かべ、その場に崩れ落ち激しく息を整える。
「………っく」
その痛みが強ければ強いほど……
(………撫子、さん)
撫子への気持ちを高ぶらせていく。
(……めちゃくちゃに、してあげる、から)
涙を浮かべながら聖はそう心に強く思った。