あの後、奏ちゃんのお家に行って色々お話を聞いた。

 奏ちゃんのこと、伊藤さんのこと、小さいころの思い出話なんかも聞かせてくれた。

 時に楽しそうに、時にせつなそうにお話をする奏ちゃんに私は奏ちゃんが本当に伊藤さんを好きなんだっていうのを感じた気がするの。

 それは恋っていう意味だけじゃなくて、伊藤さんっていう全部が好きなんだって意味で。だって、本当に嬉しそうで、悲しそうで、辛そうだったから。

 あと、私のこともいっぱい話した。

 小学校の頃の話とか、みどりちゃんや藍里ちゃん葉月ちゃんのこと、他の友だちのことも。

 今まで私たちは、普通にお友達がするようなことはお話してたけど自分自身のことについてはほとんど話してこなかった。

 だから、お互いの話はすごく新鮮で楽しくて、奏ちゃんとの距離が縮まったような気がして嬉しかった。

 ただ、肝心なところは決まってないみたい。

 奏ちゃんは謝るっていうのは決めたけど、奏ちゃんの気持ちをどうするかはまだ迷ってるみたい。

 みどりちゃんは告白をしないで恋を終えた。

 今みどりちゃんは前みたいに戻ってるって思う。

 みどりちゃんにとっては告白をしないっていうのが正しかったかはわからないけど、後悔のない選択だったんだって思う。

 でも、それが奏ちゃんにも当てはまるとは限らない。

 私は何も言わなかった。

 奏ちゃんがどうしたらいい? って聞いてきたのならともかく、そうじゃないのに私からこうした方がいいとかは言っちゃいけない気がするから。

 大切なことって自分で選ばなきゃいけない気がするから。

 ……経験がない私にはそもそも言葉がないっていうのもあるけど。

 なんて私はお風呂上りにベッドの上で苦笑いしてると。

 ブーブー。

 と、枕元に置いてあったケータイにメールが来た。

 それは、奏ちゃんからで。

 一行だけの文章で

 今日はありがとう。

 ってあった。

 それは淡泊なものだったけどでも、奏ちゃんの気持ちがすごくこもっている気がして笑顔になれた。

 奏ちゃんがどういう答えを出すかはわからない。

 でも、私は奏ちゃんが後悔ないように支えよう。

 改めてそう思って私は今日のことをよかったと思うのだった。

 

 

 もっと奏ちゃんの力になりたいって思うのはそうだけど、それとは別に私にはお話したい相手がいた。

 それは聖ちゃん。

 昨日奏ちゃんとちゃんとお話できたのは聖ちゃんに勇気をもらえたから。他にも聖ちゃんにはいつも助けてもらってばっかりで、頭が上がらないってこういうことを言うのかなって思うくらいお世話になってる。

「おはよう聖ちゃん」

 私は朝学校に来ると机に荷物を置いて、すぐに聖ちゃんの席に向かった。

「撫子さん、おはよう」

 聖ちゃんはいつも通り素敵な笑顔で挨拶をしてくれる。

「その様子だと、うまくいったみたいね」

「え……あ、う、うん」

 聖ちゃんはまるで私の心の中が見えるみたいに言葉を先回りした。

「えと、みて、たの?」

 あまりに的確だから思わずそう聞いちゃう。

 でも、聖ちゃんは軽く首を振って

「撫子さんが嬉しそうだったからそうかなって思っただけ」

 また大人な笑顔を見せる。

「……………」

 そんな姿に思わず見とれちゃう。

「? 撫子さん、どうかした?」

「っ! う、ううん、何でも、ないよ」

「そう? まだ悩みでもあるんじゃないの?」

「そ、そんなんじゃないよ。た、ただ、聖ちゃんってやっぱり大人っぽいなぁって思って」

 私は軽い気持ちでそれを口にした。きっと聖ちゃんはこんなこと言われなれてるんだろうなって思うくらいで聖ちゃんの心の中まで考えられない。

「ふふ、そうかしら?」

「そ、そうだよ。憧れちゃうくらいだもん。どうしたらそんな風になれるのかなって」

「…………」

 一瞬、聖ちゃんの表情が強張った気がした。

「ふふ、前にも言ったかもしれないけど撫子さんこそ素敵だって思うわよ」

 でも、やっぱり気のせいって思うくらいに聖ちゃんはにこやかにほほ笑んでいる。

「そ、そんな、私なんて」

 私は聖ちゃんにそんな風に言われて、聖ちゃんへの違和感なんてすぐに忘れちゃう。

「本当よ。他人のためにいつも一生懸命ですごいって思うわ」

「う、ううん、そんな………い、いつも聖ちゃんに頼ってばっかりだし、私なんて全然」

「人に頼ってまで誰かのために頑張るっていうのはそれだけ他人のことが想えるからよ。素敵だわ。とっても」

「っ〜〜」

 は、恥ずかしい。

 聖ちゃんのみたいに本当に素敵な人から、褒められるのもそうだし教室でこんな話をしちゃってるのも。みんな人の話まで聞いてないだろうけどでも、やっぱり聖ちゃんに素敵だなんてそんな人間じゃないって思うから。

「そ、そうだ。こ、今度何かお礼、するね」

 このまま話してても聖ちゃんに押し切られちゃうような気がして私は話しをそらす意味も含めてそう言った。

 それは本音ではあったけど、なんていうか流れで出た言葉でしかなかったの。

「………お礼、ね」

 でも、聖ちゃんは何かを考えるように反復していた。

 それは私があまり見ない聖ちゃん。どこか冷たさも感じるような……

(そ、そんなわけ、ない、よね)

 な、なんで私たまにこういうこと考えちゃうんだろう。私ってばひどい。

「それって、私が決めちゃってもいいのかしら?」

「え? あ……う、うん」

「ふふ、そう……」

 あれ? また………

(だ、だから、そんな、こと)

 あるわけないのに、どこか聖ちゃんのことを怖く感じちゃった。

「じゃあ、何か考えておくわ」

「う、うん………」

 そこで会話が一旦途切れた。

 ううん、一応の区切りがついたんだから席に戻ってもよかったんだけどなぜか私は数秒そこを動けないでいて、

「あ、先生来ちゃったわよ。撫子さん」

 聖ちゃんのその言葉にやっと席へと戻っていけた。

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