「そういえば、私撫子に謝らなきゃいけないことがあるかも」
公園を離れて二人で一緒に帰る中、奏ちゃんは急に変なことを言いだした。
「謝らなきゃいけないこと?」
全然思いつかない。それに、かもってどういうことかな?
「私、撫子と仲良くなったのって自分のため、なんだよね」
奏ちゃんは困ったような申し訳なさそうな顔をして、最後に多分と付け加えた。
それは言い訳っていう意味じゃなくて、さっきのかもと一緒できっと奏ちゃんの中でも整理のついてないことだから。
「独りがつらくて、撫子と友だちになれたのが嬉しかった。けど、それって自分のためだったのよ」
「奏ちゃんの、ため?」
「そう。全部自分の都合だった。独りは嫌だったし………変に考えすぎなのかもしれないけど、あいつが私の知らないともだ……恋人を作ってるのが悔しくて、私もあいつの知らない友だちが欲しかったのかもしれない。だから、撫子と友だちになって、早く仲良くなりたかった、もっと仲良くなりたかった。……あんたなんていなくたって私は大丈夫ってそう思いたかったんだと思う」
「奏ちゃん………」
うん、考えすぎだって思う。
けど、
その気持ち知ってる。
友だちがに自分の知らないお友達ができるって、少し怖いの。今までがどれだけ仲良くても、自分のいないところで笑ったり、他の子と仲よくするところを想像するだけで寂しいって思っちゃう。
友だちだってそうなのに、自覚がなかったとしても好きな人だったとしたらその気持ちは何倍にも膨れ上がるはず。
「だから、きっと、ごめん」
奏ちゃんは足を止めてそうやって謝った。やっぱり、曖昧な言葉で。でも、それは奏ちゃんの気持ちがちゃんとしてないとかそういうのじゃなく、これが奏ちゃんの本心だから。
「謝ることなんてないよ」
「わかってる。多分、そうだって。けど……」
そうかもって思うだけで奏ちゃんの中に罪悪感が膨らんじゃうっていうのもわかる。
「……じゃあ、言い方変えるね」
「?」
だから私は声に想いを乗せた。
「奏ちゃんが、奏ちゃんのために私と仲よくしてくれたっていうのでもいいよ。私は嬉しかったもん。奏ちゃんと仲良くなれて嬉しかった。奏ちゃんがどんなふうに思ってても、私はそう思ってるよ」
「っ……撫子」
私の気持ちは奏ちゃんの心に届いたみたい。
「奏、ちゃん……」
まるでスイッチを押したみたいに奏ちゃんは、さっきだって流さなかった涙を流していた。
「あ、れ? あはは、ごめん、なんか……あはは」
自分じゃ意外だったみたいで奏ちゃんはバツが悪そうに首をふったり、頬を抑えたりした。
「安心、したの、かな? あれ? 何に? わかんない……ごめん、全然わかんないけど…………」
奏ちゃんはわかってないみたい。もしかしたらわかってないふりをしているのかもしれないけど、奏ちゃんはぽろぽろと涙を流すだけ。
私はちょっとだけわかる気がする。その理由。きっと整理がついたんだ。色々なものに。
だから、涙がいっぱい流れても今の奏ちゃんは全然悲しそうに見えなくて、
「わかんない、けど……ありがとう、撫子」
さっきのありがとうよりもずっと輝いていた。