恋って難しい。
最近そんなことを考えるの。
私は今まで恋をしたことがなかったわけじゃない。でも、本気の恋っていうのはないって思う。
みどりちゃんや奏ちゃんみたいな本当にその人を好きになるっていうことはなかった。私の恋は、恋なんて呼べるようなものじゃなくて、ただ遠くから眺めるだけ。
告白なんてしようと思えたこともない。
だから、恋なんて遠くてよくわからないものだった。
でも、恋って難しいんだなぁて思う。
私が知ったつもりだったのはお話の恋ばっかりで、確かにつらいことや悲しいものもあったけど、それでもどこかきらきらしたものだった。
私もこんな恋をいつかするのかなってどこか他人事のように考えてた。
けど、恋ってそんなに簡単なものじゃない。甘くて、楽しいだけじゃない。
つらいことや悲しいことだって、きっといっぱいある。
それが恋なんだ。
なんて、偉そうだけど。
自分で経験したわけでもないのにね。
ただ、思う。
私もいつかちゃんと恋をしてみたいなって。
みどりちゃんの恋。
奏ちゃんの恋。
私が見たのは恋のつらい部分だったのかもしれない。
けどね、ちゃんと恋がしたいって思うの。
つらくて悲しいこともあるかもしれないけど、本気の想いは素敵だった思ったから。
みんなのために気持ちを隠したみどりちゃんも、受け入れられないってわかってたのに告白をした奏ちゃんも。
つらいはずなのに、つらいだけじゃないって思ったから。
だから、私もそんな恋をしてみたいって思ったの。
(ただ………)
やっぱり、そういう時が訪れるなんて全然現実感は持てなかった。
「……………」
私は放課後の教室で、一人佇んでた。
さっきまでは自分の席に座ってたけど、それも飽きて窓から部活動を眺めたり時折時計を見上げる。
(聖ちゃん、まだかな?)
待ってるのは聖ちゃん。
今日お話をしてたら、話したいことがあるから放課後教室で待っててって言われてこうしてる。
遅くなるかもって言ってたけど、そろそろ空が赤く染まってきた。
あと三十分もすれば下校時間になって帰らなきゃいけない時間。部活動で残ってる子はいるだろうけど、私みたいな三年生はもうほとんど帰っている。
現に教室にも私しかいない。
薄暗くなってきた教室に一人。
なんだか、お化けとかでそうでちょっと怖い。
「ふふ」
でも、どことなく幻想的な雰囲気もあるような気がして軽く笑った。
そんなことをしてると
「撫子さん」
聖ちゃんの声が聞こえた。
(……?)
私は降り返って教室の入り口を見ると、こっちに向かってくる聖ちゃんにどうしてか違和感を覚えた。
楽しそう? ううん、何か違う、ような……? どこか上気して、高揚してるような、そんな空気がある。
「ごめんなさい。待たせちゃったかしら?」
「う、ううん。そんなことないよ」
「そう? ありがとう撫子さん。人がいなくなるのを待ってたら結構な時間になっちゃったわね」
「う、うん?」
何言ってるんだろう。人がいなくなるのを待ってたら? どうしてそんなことを気にするのかな?
そりゃあ、人に聞かれたくないお話っていうのはあるのかもしれないけどでもそれは別にいないところに行けばいいだけなんだし。
「ねぇ、撫子さん?」
「な、なぁに?」
「この前、お礼してくれるって言ってくれてたわよね」
「う、うん」
私は疑問を感じてもそれに答えを得る前に聖ちゃんは話を進めていく。
「それ、今もらってもいいかしら?」
「え? う、うん、いいけど……。え、で、でも私何も持ってない、よ」
お礼できるようなものは何もない。
「ふふ、いいの」
聖ちゃんは不敵に笑いながら私への距離を詰めてくる。
「?」
それはどんな意味なのか全然わからないけど、なぜか心臓の鼓動がはやっていく。
「あ、あの、聖、ちゃん?」
理由はわからない。でも、けど……
心臓が、鼓動が……体が……
(え……?)
聖ちゃんは私の頬に手を添えた。
(なん、なんだろう……?)
どうして聖ちゃん、こんな、こと……?
「私が欲しいのは………」
え? 何、どうしたの? なんで聖ちゃんは近づいて……?
「貴女なんだから」
「っ!!!?」
私の唇に、聖ちゃんの唇が重ねられていた。