私は仲良くなってからずっと聖ちゃんには感謝しっぱなしだった。
私が困ったとき助けてくれて、困ったって言わなくても気づいてくれて、時にはあえて距離を置いてくれたりもしてて。
本当にいつも大人っぽくて、かっこよくて、優しくて、可愛くて。
……憧れてた。
だから、好きか嫌いかなんて言ったらもちろん
「ひ、聖ちゃんのことは……好き、だよ」
こっちの答えになる。
「撫子さん……」
聖ちゃんの嬉しそうな声。でも、私は……まだいうことがあって、それが簡単に言えないことでうつむいちゃってて、聖ちゃんが笑顔でいるのを見なかった。
ニヤリって笑ってるのを。
「け、けど……ね。わ、私、聖ちゃんのこと、そ、そんな風に好きかはわからないの」
私が言ってること、きっとおかしなことじゃないし、間違ってもいないはずなのに、こんなことを言うのすら申し訳なく感じちゃう。
私なんかを好きって言ってくれたのに、それをわからないだなんていけないことな気がするから。
「そう………」
(っ………)
聖ちゃんの残念そうな声が耳に響いて私は顔を上げた。
「ひ、聖ちゃんのことは本当に好きだよ」
慌ててこんなことを言っちゃう。
「いつも感謝してるし、本当に大好きなの。で、でも……こういうの初めてだから。か、考えたこととかもほとんどないし、わ、わからない、の。っ………!!?」
頭の中が真っ白になりながら私は必死にそう言った。何が私を必死にさせてるのかもわからない。けど、これが私の本音で、熱くなってる私に聖ちゃんは
「ひ、じり、ちゃん………?」
抱き着いてきた。
ぎゅって背中に腕を回されて体が重なる。
「ありがとう」
「え……?」
ど、どうしてありがとう、なの? そんなこと言われる理由なんて全然ないのに。むしろ反対だって思ってるくらいなのに。
「私のほうが、撫子さんのこと困らせちゃってるのに、撫子さんはちゃんと答えてくれたから」
私の心を見透かしたように聖ちゃんは答えてくれた。
「……聖ちゃん」
聖ちゃんは本当に優しい。不安なのは聖ちゃんの方のはずなのに、私のことをこんな風に気遣ってくれるなんて。
「……好きよ。撫子さん」
(っ………)
耳元で甘く囁かれた言葉に背筋がゾクってなった。
不思議なくらいドキドキする。
もともと聖ちゃんみたいな素敵な子に好きって言われるのは嬉しい。告白されたのだって初めてなんだもん。本気で好きって言ってもらえてうれしい。
「あ、あの、ね。聖ちゃん」
「……なぁに」
「ちゃ、ちゃんと応える、から。聖ちゃんの気持ちにちゃんと答えるから。だから、ちょっと、だけ待ってて欲しいの」
聖ちゃんに好きって言ってもらえてうれしいからこそ、私はそうやって言ったの。
聖ちゃんの本当の気持ちも目的も知らないまま、今言われたことが真実だと信じて。
「ふわ………」
お家に帰ったあと、私は制服も着替えないでそのままベッドに横になった。
(すごく、疲れちゃった………)
うつ伏せになって私はそう思った。
体を脱力させて、ぼやっと聖ちゃんのことを考える。
(……聖ちゃん……)
あの後、聖ちゃんとは一緒に帰らないで一人で帰った。
そっちのほうがいいでしょって聖ちゃんは優しく笑ってくれて私を送り出してくれたの。
あの場所を離れるタイミングがわからなかったから聖ちゃんそうやって言ってくれたのはありがたかった。
それは聖ちゃんの優しさだって思う。聖ちゃんは……そ、その、私をす、好きって言ってくれてるんだから一緒にいたいって思ってくれてるんじゃないかって思う。けど、私は……今日は一人の方がよかった。
聖ちゃんのことが嫌とかそういうことじゃなくて、少なくても今日は一人の方がよかったの。
聖ちゃんはそういうのをわかってくれて、自分のことよりも私のことを優先してくれた。
(……好きって、言われちゃった……)
昨日、急にキスをされたことを忘れたわけじゃないの。でも、もうそのことよりも好きって言われちゃったことで頭がいっぱいになっちゃってる。
好きって言われたのは嬉しい。
聖ちゃんのことは尊敬してて、憧れてて、私なんかとは全然くらべものにならないくらい可愛くて、優しくて素敵な女の子。
そんな聖ちゃんに好きって言われたのは嬉しい。
あんな風に告白されるのだって初めてだし、それが聖ちゃんだったなんてびっくりだけど………嬉しい。
「でも………」
ごろんと横になって私は天井を見つめた。
(っ………)
聖ちゃんの体の感触を思い出して私はかぁっと顔を熱くした。
柔らかくて、あったかくて、ふわふわとした聖ちゃんの感触。
すごく、ドキドキしたの。
それがどうしては自分でもよくわからない。
わかるのは一つだけ。
(ちゃんと、答えなきゃ)
どんな答えを出すかはまだ自分でもわからないけど、聖ちゃんの気持ちに私も本気で答えなきゃいけない。
それだけを思って私はいつのまにか眠りに落ちて行った。