「ん……ちゅ……ぁ。んぷ。……はぁ」
撫子が去った音楽室。
そこに二人の少女がいる。
壁を背にする小柄な少女。
その少女を抱き、口づけをする少女、聖。
聖は妖しく舌を絡めるキスに少女は蕩けながら聖にすがるように抱き着く。
それは一分近く続き、二人は離れると今度は会話を始める。それは撫子の見ていない聖の姿。
ただ、この会話は長くは続かず少女は撫子と同様に聖を残して去っていく。
一人音楽室の残る聖は、数少ない机のイスではなく上に座り中空を見つめた。
(……なかなか予定通りには行かないものね)
すでに先ほどの少女のことではなく、撫子のこと。
(もっと簡単かと思ってたけど……)
思いのほか撫子はしっかりとしていた。雰囲気や状況に流されず、自分を保ち続けた。
ここに来た頃にはすでに思考停止状態かと思っていたが、それは聖の考えの方が甘かったらしい。
「……まぁ、いいわ」
途端に聖は笑った。
見る者に悪寒を走らせるようなそんな邪悪な笑みで。
(それならそれで、やりようがあるし)
それは撫子も、さきほどの少女も、聖と関係を持った誰もが知らない笑顔。
「それに………」
机から降りて聖は【その時】を想像する。
「……そっちの方が楽しいかもしれないしね」
聖は先ほどと変わらぬ邪な笑みを浮かべながら
「………っ……」
涙を流した。