「ふぁあ………」

 私は歩きながらはしたなくあくびをしちゃった。

 だって、すごく眠い。

 一昨日、キスをされてそれで眠れなくて、昨日も聖ちゃんの告白にびっくりしちゃってほとんど眠れなかった。

 授業中はちょっと寝ちゃったけど、でも全然眠気は取れなくて昼休みになった今もすごく眠いまま。

 でも、私は教室とか保健室で寝たりはしなくて、こうして歩いてる。

 お昼休みになってから私が最初に向かった場所。

 それは聖ちゃんとの時間を過ごすことが多かった場所。第二音楽室。

 今は鍵がかかってて中に入れないけど私はその場所で聖ちゃんのことを考えた。

(……聖ちゃん、どういうつもりだったんだろう)

 私は初めてここに呼ばれた時のことを思い出す。いきなり抱きしめられて、キスされそうになったときのこと。

 すごくびっくりしたことだったけど、その時のこともうよく覚えてない。聖ちゃんは色々言ってた気がするけど、はっきり覚えてるのはさっきの二つだけ。

(あの時から、私のこと、好き、だったの、かな?)

 きっとはっきり覚えてればそうじゃないって思えてた。でも、そんなに便利にはできてなくて私は都合よくそう思っちゃう。

「……聖ちゃん」

 私は何となく名前を呼んでみた。何も帰ってこないのは当たり前だけど、そのまま聖ちゃんのことを思う。

 いつも聖ちゃんには助けられてばっかりだった。相談をするといつも優しく私のことを導いてくれて、何回も聖ちゃんのおかげで心が軽くなれたのを覚えてる。

(そういえば、結局お礼、してないな)

 ふとそう思ってから次に

(あれは………お礼っていうわけじゃない、し)

 聖ちゃんにされた【お礼】のことを、キスのことを思い出して

「っ!!?」

 顔を真っ赤にしちゃう。

 聖ちゃんに告白されて、もう怖くは思わないけど。でもやっぱりすごく恥ずかしいのは変わらないから。

「ぁ………」

 そういう恥ずかしいのが止まらなくて、私は聖ちゃんと関係の深いこの場所から離れていくと

「あ、いたいた」

 校舎に向かってた途中で声をかけられた。

「奏、ちゃん……?」

 校舎に向かう道の反対側からやってきたのは奏ちゃんだった。

「ったく、なんでこんなところにいんの? 探しちゃったじゃない」

 私を見ると奏ちゃんは早足に寄ってきて、

「ん? 顔赤くない? どうかしたの?」

 すぐにそのことに気づかれちゃった。

「あ、ぅ、ううん! なんでも、ない、よ」

「いや、赤いからどう見ても」

「……ごめんなさい」

「なんでここで謝るんだか。まぁ、とりあえずここ寒いし中入ろう」

「あ、う、うん」

 奏ちゃんに言われるまま私は校舎の中に戻って行く。

「……あの、奏ちゃん」

 校舎に入って、教室とかがある方向じゃなくて特別教室とかがあるあんまり人気のないところにつられてきて、私は先に奏ちゃんのことを呼んだ。

「何か、用、なの?」

「用がないのに探したりしないでしょ。というか、心あたりあるんじゃない?」

「…………」

 ある。

 奏ちゃんには昨日の朝、まだ聖ちゃんとお話をする前に会って、見られちゃったから。

 一番様子が変だった時の私を。

 今は、そのことは直接は大丈夫だけどでも人に言えない悩みを持ってるのは変わらないから。

(言えないの、かな?)

 ふと、そのことを疑問に思った。

 昨日の……【お礼】のことだったら絶対に言えない。

 けど……告白されたこと、なら?

 も、もちろん、私が聖ちゃんに告白されたなんて言えないよ。

 でも、そういうのを隠してなら、相談に乗ってもらえたりとか……いいの、かな?

「撫子相手に回りくどく言ってると話進まなそうだからはっきり言わせてもらうけど、なんか悩んでるよね。何があったの?」

 私が決めかねてると奏ちゃんはそうやって切り出してきた。逃げ道を塞がれるような、でも背中を押しくれてるようにも思える言葉を。

「えと………」

 でも、私はすぐには決められない。

 話すとしても聖ちゃんのことを直接いうつもりはないけど、それでも勝手に話しちゃうのはいけないことのような気がするから。

「…………」

 私は困った顔をして黙って、奏ちゃんはそんな私は難しい顔で見つめてる。

 それから少しして、

「ちょっと、言いたいことがあるんだけどいい?」

 雰囲気を変えて真剣な目をしてきた。

「う、うん」

「私は、撫子のこと友だち……っていうか、し、親友って思ってる、から」

「あ……」

「撫子がどう思ってるかは知らないけど、撫子は私にそれだけのことしたから。だから私はあんたを親友だって思ってる」

「あ、ありがとう」

 いきなりでびっくりしちゃうけど、奏ちゃんがこう言ってくれたのは素直に嬉しい。

「だから、あんたが何か悩んでるなら力になりたい。もしかしたら何にも力になれないかもしれないけど、一緒に悩むくらいはできるし、ちゃんと力にだってなれるかもしれない」

「…………」

「でも、話してくれなきゃそれすらわからない。だから、話してよ。私は撫子の力になりたいから」

「奏ちゃん……」

 嬉しい。

 まずはなによりもそう思った。

 だって、奏ちゃんが本気で言ってくれてるのがわかるから。

 昨日の聖ちゃんもそうだけど、本気の想いをもらえるって嬉しい。それだけ私なんかのことを考えてくれてるってことだから、嬉しい。

「……まぁ、っていっても撫子の場合どうせ自分だけのことで悩んでるんじゃないんでしょ。だから、簡単に言えないんだっていうことくらい理解してるつもり。ただ、いっときたかった。私の気持ちをさ」

「っ……」

 奏ちゃんは笑顔だった。

 伊藤さんに振られてきたって言ったときみたいな清々しい笑顔。

「とりあえず、今はそれだけ。無理やりは聞かないよ。話したくなったらいつでも話して」

 そう言って奏ちゃんは私に背を向けた。

「奏ちゃん……」

 私はそんな背中に

「……ありがとう」

 今はそれだけを伝えた。

 

9-1/9-3

ノベル/私の世界TOP