あのドキドキがなんだったのか初めての時はよくわからなかった。
けど、何回か同じドキドキを感じてな、何となく、本当にもしかしたらっていうくらいだけど、ほんの少しだけ心あたりがあるような気がする。
決まって聖ちゃんのことを見たり、考えたりするときにあのドキドキはやってくるから。
聖ちゃんに待ってて伝えてから今日で一週間。
早く答えなきゃって思う中、私は奏ちゃんのお家にやってきてた。
「はい」
お部屋の中で一人待っていた私に奏ちゃんは、ジュースとお菓子を持ってきてくれて、私はありがとうって言いながらそれを受け取る。
ふかふかのクッションに座りながらまずはジュースを一口だけ飲んだ。
「で、話してくれる気になったの?」
奏ちゃんは気のせいかちょっと嬉しそうに言って、私にお菓子を進めてきた。
「う、うん……」
私はコクンと頷く。
直接悩みを打ち明けるって言ったわけじゃないけど、お話したいことがあるからってここについてきた。
もしかしたらって思ってる気持ちの正体を知るために。
「そっか。ありがと」
「?」
今度は気のせいじゃない。確かに嬉しそうに奏ちゃんはありがとうって言った。
「あの?」
私はその理由がわからなくて、首をかしげる。
「こっちの話」
「う、うん?」
「気にしないでよ。私のことよりも撫子の話でしょ」
「あ、うん……」
奏ちゃん理由はわからないけど、その通り。
「あ、あのね。私、最近ちょっと変、なんだ」
そんな始まり。
素直に言えないのはただ恥ずかしいって思ってるからか、他の理由からなのか自分じゃよくわかんない。
「撫子は結構変な部類に入ると思うけど」
「ふえ!?」
「あー、いや、何でもない。で、何が変なわけ?」
「え、えと、ね……たまに、なんだけど、ある人のこと見たり、考えたりすると、ね。ドキドキ、したり、するの」
「………へぇ」
「その人は、ね。今までお友達で、よく相談に乗ってもらったりなんかもして、いつも優しくて、前から素敵だって思ってたの。けど」
告白されて、今があるのは聖ちゃんのおかげって自覚するようになってから。
「最近、ドキドキするの。話さなくても、考えるだけで胸が熱くなったりして、なんだか恥ずかしくなっちゃったりもして」
「……………」
私は無意識にうつむいちゃってて、奏ちゃんの表情がみるみる曇るのに気づかない。
気づかないまま。
「これって、どういうことだって、思う?」
顔を上げて、奏ちゃんに問いかけてみた。
「どうって………わざと言ってんの?」
その時には奏ちゃんはもう仮面をかぶっていて
「そんなの決まってんでしょ」
にっって笑ってた。
「撫子がその人のこと好きだからに決まってんじゃん」
「す、き……」
噛みしめるように私はその言葉をつぶやく。
その瞬間、心の中で歯車がかみ合ったようなそんな感じを受けた。
「っていうかそこまで自分で言っといて気づいてないってことはないんじゃないの?」
「……………」
どこか上ずった声の奏ちゃんに私は押し黙っちゃった。
そう、かもしれない。
ううん、きっとそう。
そして、私は多分、そう言ってもらいたくて奏ちゃんにお話したんだ。自分でもそうかもって思っててけど、それを自分だけじゃなくて認めてもらいたかったから。
(やっぱり、私聖ちゃんのこと……)
「にしても、撫子が人を好きになるなんてねー。意外ってわけじゃないけど、撫子ってみんな好きとか言うタイプだから、やっぱちょっと意外かも」
「う、うん……」
私もそう思う。
今までそんなことを思ったことはなかったし、世界が変わってからも、みどりちゃんや奏ちゃんの恋を見ても、恋については知ったかもしれないけど、自分で誰かに恋をするなんて考えてなかったから。
「ね、相手誰なわけ? 私が知ってる人?」
「そ、それは………」
言え、ない。
自分から相談しに来ておいて、勝手だし、そもそも相談っていうよりも背中を押しに来てもらったくせに誠実じゃないけど、ただ聖ちゃんのことを好きっていうだけならともかく聖ちゃんに告白されてる今を考えたら言っちゃダメ。
私はもじもじとしただけで返答に困っちゃった。
奏ちゃんはそれに気づいてくれたのか、
「まぁ、無理に聞くことでもないか」
そう言ってくれた。
「あ、ありがとう」
「無理やり聞くほど趣味は悪くないって。でも、撫子だったら他に相談できそうな相手がいるような気もするけど」
「っ!」
一瞬ビクンってした。私にとって、相談できる人は最近は聖ちゃんって決まってるからバレたのかと思った。
「あー……と。まぁ、それはいっか。ごめん、変なこと聞いた」
「う、ううん。私の方、こそ」
「いや、撫子はまるで悪くないっしょ。私が無理に聞いたんだし」
「そんなこと、私なんて相談に来たのに……」
「だから、いいっつってんの。そうやってすぐ謝るくせ直したほうがいいよ?」
「う、うん、ごめんね。あっ……」
「………ま、それは徐々にしていけばいいだろうけど。今は目の前のこと頑張ったらいいんじゃない」
「う、うん」
「何を頑張れとかは私もどういっていいのかわからないけど、恋してみるのっていいことだよ」
「…………」
奏ちゃんがこう言ってくれるのはちょっと不思議な感じがした。
「たとえ駄目だったって、なんか心に残る気がするんだよね。って、不吉なこと言ってるか。撫子はこれからなんだから」
「う、うん」
「とにかく、後悔しないようにしよ。何か言ってくれれば私の力になるから。振られたときだって、ちゃんと慰めてあげるしね。って、また縁起でもないけど」
「ううん、ありがとう。ちゃんと、頑張ってみるね」
「その意気、その意気」
私がしなきゃいけないこと、それはもう決まってて、もしかしたらじゃなく結果だってわかってるかもしれない。
けど、こうして背中を押してもらえるのは嬉しくて、早く聖ちゃんに応えたいって私は能天気に思ってた。